見出し画像

アンナ・セットンが聴かせる新境地 〜『O Futuro é Mais Bonito』

(3 min read)

Anna Setton / O Futuro é Mais Bonito

2018年のデビュー・アルバム『アンナ・セットン』がさっぱりさわやかで心地いい新世代ジャズ・ヴォーカル作品でしたから、それですっかりお気に入りになったブラジルの歌手アンナ・セットン。しかし21年の二作目は個人的にあんまりちょっと…っていう印象でした。

今年最新作『O Futuro é Mais Bonito』(2023)が出たもんで、どんなかな〜と思って、前作みたいだったらちょっとあれだな〜ってちょぴり警戒もしつつ期待を持って聴いてみたら、今度はわりといいんじゃないかという気がします。

一作目の路線に戻ったのではなく、冒険っていうか実験的にチャレンジしている内容で、いままでの二作にないひろがりを感じます。それでいながら根底にサンバなど伝統的ブラジル音楽要素やジャジーなシンガー・ソングライターっぽい従来のたたずまいが感じられてグッド。

レシーフェでの録音ということで、同地の音楽家であるジュリアーノ・オランダやイゴール・ジ・カルヴァーリョもソング・ライティングに参加。アンナと前からコラボしているジョアン・カマレーロ、ロドリゴ・カンペーロ、エドゥ・サンジラルディもいます。

プロデューサーのバロ、ギエルミ・アシスの二人は知らない名前ですが、先進的なサウンド・メイクの鍵を握っているのかも。ブラジル音楽とジャズをベースとしながらも、レゲエやエレクトロニカ/アンビエントなど大胆にとりいれた繊細な表情はニュアンスに富み、なかなか聴きごたえがあります。

アンナのヴォーカルもデジタル加工してある部分があり、そうでないストレートな部分でも、歌を聴かせるという面と、さらに全体のサウンドのなかの一楽器として声を使っているというプロデュースもほどこされているように思います。大半コンピューターで音づくりしていて、それがけっこうおもしろいんですよね。

それでも一貫してブラジル音楽ならではのサウダージが底流に確実にある、全体的に、というのが間違いないとわかって、だからぼくみたいなコンサバ・リスナーでも共感できるんです。

ラスト10曲目「Sweet As Water」だけは歌詞もなぜかの英語。アンナとジョアン・カマレーロとの共作ですが、なんだかレトロっぽいなつかしのUSアメリカン・ポップスみたいなフィーリングで、しかしやっぱり哀愁感に満ちています。

(written 2023.3.5)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?