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下層庶民歌謡はジャジーな洗練サウンドで生き残れるか?〜 イヴァーナ

(4 min read)

Ivana / Sashtata i ne savsem - 20 godini na stsenata

bunboniさんに教わりました。

ブルガリアのチャルガ歌手だそうですが、イヴァーナ。その2019年作『Sashtata i ne savsem』には従来的な泥くさいチャルガのイメージはなく、もっと都会的に洗練された印象の内容ですね。その意味ではぼく好み。

特に3曲目以後ですかね、その傾向が顕著になってくるのは。3曲目は曲題の横に「ジャズ・ヴァージョン」と副題があるとおり、4/4拍子のいかにもなジャズ・アレンジ。これはちょっとなんというか、どのへんにアピールしようとしているか、その意図があからさますぎる気がして、イヴァーナの強めの声とのバランスもよくなくて、個人的にはイマイチですけど、でも悪くないですよね。

4曲目、5曲目あたりが、このアルバムのなかではかなりオッ!と聴こえるものです。まるでシャーデーを思わせる都会的でスムースなサウンド・メイク。これがブルガリアのチャルガ歌手の曲なのか?!とびっくりしますよね。まるでフュージョンですし、だから個人的には好感度大。ジャジーですしね。

チャルガってブルガリアのポップ・フォークのことみたいですけど、とてもそのフィールドでやってきた歌手の作品とは思えない仕上がりで、bunboniさんも書いているように、世界の下層庶民歌謡は生き残りをかけてこういった洗練されたサウンドを目指すようになっているかもしれません。

そのことがいいのか悪いのか、聴きやすくなっているのはたしかですけど、大衆歌謡としての魅力はまたちょっと別なところにあったりするんじゃないかと思わないでもなかったり。ジャジーで都会的に洗練されたサウンドで生き延びられるかどうか。う〜〜ん…。かえってファンを失うのでは?という危惧もありますね。

このイヴァーナの最新2019年作でも、Spotifyでの再生回数をデスクトップ・アプリで確認すると、ジャジーなスムース・サウンドの曲よりも、従来的なチャルガ寄りの曲のほうが圧倒的に聴かれているんですよね(1、7曲目)。ジャズ・サウンドがせいぜい2、3千回程度の再生なのに対し、チャルガ・ナンバーは10万回を超えていたりしますから。

イヴァーナの過去作もSpotifyで聴けるものは聴いてみたんですけど、ぼくの耳には泥くさい庶民性をウリにした路線のほうが、より持ち味を発揮していてチャーミングに聴こえます。ジャズ・ファンだからといって、シャーデーみたいなサウンドがいいか?というと、すくなくともイヴァーナにかんしてはちょっと違う感想があるかもしれません。

日本の演歌なんかでも、今年元日の記事で特集しましたように、特に新世代のあいだでは激情的でないアッサリした薄味のスムースに洗練された歌いかたが主流になってきていて、旧来的な演歌唱法との差が大きくなりつつあるんですけど、それで演歌が生き残れるかどうかはもうしばらく観察してみないとなんとも言えないのかもしれません。

(written 2021.6.6)

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