見出し画像

このリマスターでぶっ飛んだ 〜 ツェッペリン、ストーンズ

(6 min read)

いまは(ほぼ)サブスクでしか音楽を聴かなくなったので、リマスター盤とかSACDとかその他各種高音質ディスクのたぐいとは縁がなくなり興味も失せつつあるんですが、CDをどんどん買っていた時代にはそりゃあ気にしていました。

音質なんか聴いてもよくわかんないのにねえ。でも音質の差がわかるような耳の持ち主じゃないぼくだって「こりゃとんでもない!」と、かけた瞬間自室スピーカーの前にすわったままの姿勢で3メーターくらいうしろに飛んだようなCDがありました。

それがレッド・ツェッペリンのリマスター・ボックス四枚組(正式名称なし、1990)と、ローリング・ストーンズのベスト盤『ジャンプ・バック』(1993)。この二つは、どんなチープなオーディオ装置でもどんな耳でも、聴けばビックリ仰天したはずです。

それくらいそれまでの従来盤CDと比べ音質が著しく向上していたんです。1990年代前半ごろというとCD時代になってやや時間が経ち、レコードで聴いていたのより音が悪いとかこんなはずじゃなかったとかいう声も高まっていた時期でした。ジャケットの色味とかもレコードのそれと違っていたりの不満があって。

CDメディアの登場で、会社側も最初のうちはなにも考えずそのままCDに焼いて売っていたんでしょうが、音を記録したり再生したりする仕組みがレコードとは異なっているので、CDにはCD用のリマスタリングが必要ということがまだ認識されていなかったと思います。

ジャズやロックなどの古典的名作の初期盤CDはそんな時期に出たものでしたから、たしかにぼくらもイマイチに感じていましたよね。それを音楽家や会社側が認識するようになり、実際現物も聴いてみて、「こんな音じゃなかったはず、これではダメだ」とマスタリングをやりなおすようになったんです。

それが1990年代前半〜なかごろの話。ツェッペリンのばあいは当時ジミー・ペイジが「市場にでまわっているCDの音はぼくらの音じゃないから、やりなおすことにした」とちゃんと語っているのをどこかで読んだ記憶があります。

要するにスタジオでバンドがレコーディング時に出していたオリジナル・サウンドに近いものをCDでも再現したかったということで、マスタリングをCD用にイチからやりなおして、ちゃんとした音質でリリースされた最初のものがゼップのリマスター・ボックス四枚組です。

これぞジミー・ペイジ本人の手がけたオリジナル・サウンドだ!っていうんで、ぼくも実際聴いてみて、それまでのものとはまったく違うあざやかでくっきりしたサウンドの立体感とクリア感に驚いたんですよね。これだよこれ!これがツェッペリンの音だ!と快哉を叫ぶものでした。

ストーンズの『ジャンプ・バック』(93)のほうは、このバンドがヴァージンに移籍して最初にリリースされたベスト盤です。ストーンズは配給会社を変えるとそのたびにまずベスト盤をリリース(して、その後ゆっくりとニュー・アルバム製作に入っていく)という慣習があります。

べつにミックやキースのメディア向け発言(リマスターするとかなんとか)はなかったと思うんですが、勤務していた國學院大学の生協購買部で(当時のニュー・リリース・アイテムとして)『ジャンプ・バック』を見つけて、いいかも?買ってみようかなとなんとなく思っただけです。

そいで自宅へ持って帰ってかけてみて、ぶっ飛んだんです。1曲目が「スタート・ミー・アップ」で、出だしで最初にキースの弾くギター・リフのあと一瞬空白があるんですけど、その空間にただよう余韻と空気感とセクシーさがタダゴトじゃなかった。いままで聴いてきた『タトゥー・ユー』CDっていったいなんだったのか?!と口あんぐり。

その後も全曲この調子で、聴きながら、あぁこれはいままでのストーンズCDとはまったく音が違う、根本からマスタリングをやりなおしたんだと確信できました。リリース時に『ジャンプ・バック』を聴いたファンは全員そう感じたはずです。だれが聴いてもわかる新しさでしたから。

その後ヴァージンは(たしか1994〜95年ごろ)ストーンズの全アルバムをその音質でリリースしなおしました。リアルタイムの新作でいえば『ヴードゥー・ラウンジ』『ストリップト』のころ。だからぼくはあのときストーンズのアルバムをすべて買いなおしたんです。

ツェッペリンにしろストーンズにしろ、その後もなんどか新リマスター盤が出ていますけど、これらを超える新鮮な感動、はっきりいって驚天動地のというほどのぶっ飛び感は味わったことがありません。いちおう買ったりはしていたんですが、もはやこれ以上大きく音質アップしないとわかったので。

Spotifyなどサブスクに入っているのがどのヴァージョンの音か、何年リマスターとか明記されていないものは聴いても判然としないことも多いですが、いずれにせよあの1990年と93年の音がその後も基準というか土台になっているのは間違いありません。

(written 2022.3.26)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?