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心おだやかに 〜 比類なきルーマーの『ナッシュヴィル・ティアーズ』

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Rumer / Nashville Tears

大好きルーマーの2020年作『ナッシュヴィル・ティアーズ』のことは、その年にすぐ聴いて感想を書きブログにも上げました。カレン・カーペンターとかノラ・ジョーンズとかのファンでしたら、ルーマーも一聴の価値ありですよ。

この『ナッシュヴィル・ティアーズ』を、近ごろまたふたたびどんどん聴きなおすようになっています。リリース当時いいねと思ってかなり聴きましたが、また違った意味でよりいっそう沁みるようになってきているんです。

きっかけは正月にレトロ・ポップスの記事とオーガニック・ミュージックの記事を書いたこと。そういう方向を自分で明確に意識するようになってみると、ルーマーは、もちろん前からそんな趣向がありはしたものの『ナッシュヴィル・ティアーズ』はこれまたいっそうそうじゃないかと強く感じるようになりました。

くわえて大きなことだったのは、3曲目「オクラホマ・ストレイ」が傷を負った野良猫と心を通いあわせる人間とのつらく悲しい出会いと別れのストーリーだと知ったこと。ある晩なんか聴きながら泣いちゃいました。ほんとうにハートブレイキングな一曲。

淡々と静かに弾かれるアクースティック・ギターだけの伴奏ではじまって、しばらくするとペダル・スティールとかフィドルとか(薄いドラムスとか)もからみはじめるんですけど、その上でやさしくそっとおいていくように、静かにことばをつづっていくルーマーのヴォーカルによって、悲痛がいっそう胸に迫ってきます。

続く4「ブリスルコーン・パイン」の切な系メロディも、この歌手の端正で美しい声で歌われてこそ沁みるし、15「ハーフ・ザ・ムーン」出だしのアクギ・カッティングとマンドリンのからみの美しさとか、16「ネヴァー・アライヴ」はピアノ一台だけの伴奏でたたずんでいるおだやかな様子とか。

アルバム全編とことん<オーガニック>ということにこだわったサウンド・メイクも、いまのこの2020年代にこれ以上のプロデュースとサウンド・メイクはないなぁと言い切りたいほどすばらしい絶品です。

電子楽器はいっさいなし、電気だってベースと(一部の)ギターだけで、それも控えめ。徹底的にアクースティックな人力生演奏で組み立てたのは、とりあげられているのがすべてヒュー・プレストウッドというポップ・カントリー系ソングライターのブックであるということも関係あるんでしょうし、ルーマーの資質も考慮に入れてのことでしょう。

仕上がりは決してカントリーっぽいサウンドにはならず、しっとりと湿っていてしかもやわらかくおだやかな情緒を感じさせるルーマーのこの比類なき美声こそ、人間味あふれるプレストウッドの世界を歌うにふさわしい最高のものだと実感します。

(written 2022.1.16)

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