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アラブ古典をやるイエメン人歌手 〜 シラン

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SHIRAN / Glsah Sanaanea with Shiran

シラン(Shiran)ってだれ?そんなひと、知らん?なんでもイエメン出身で、現在はイスラエルのテル・アヴィヴで活動する歌手だそうです、ぼくもこないだまでちっとも知らんかったのでした。出会いは、たしかTwitterでなにかのアカウントが(たぶんディスクユニオン)このシランの2020年新作『Glsah Sanaanea with Shiran』が入荷したと言っていたからで、ツイートに載っていたジャケットの魅力に一発でやられちゃったんですね。二作目だそうです。

それで、イエメン(出身)歌手の音楽ってまったく聴いたことがないし、興味がわいて、Spotifyで聴いてみました。すると、これはアラブ音楽ですね。それも、聴いた感じ(エジプトあたりの)アラブ古典歌謡の色彩が濃いんですけど、読みかじる情報によればシランはイエメンの伝統曲をモダナイズしているんだとのこと。ということはこのアルバムで聴ける曲はすべてイエメンのトラッドなんでしょうか。イエメンの音楽をなにも知りませんので、そのへんはなんとも。

でもモダナイズしているとの(ディスクユニオンの)情報にはかなり首を傾げざるをえず。これはどう聴いてもアラブ古典歌謡の音ですからね。そんな音楽をやってイスラエルのテル・アヴィヴで活動しているというのはべつにめずらしいことじゃないっていうか、現在ではイスラエル人でもアラブ音楽をやったりしていて、同国にはいろんな音楽があるんで、アラブ vs イスラエルという二項対立発想で考えないほうがいいと思います。

シランのこのアルバムでは、そう、くわしい使用楽器とパーソネルがわからないけれども耳判断では、カーヌーン、ウード、カマラ(かなにかの笛)、パーカッション、ヴァイオリン or チェロ(かなにかそれ系の弦楽器)、そしてヴォーカル・コーラス、といった編成じゃないでしょうか。たぶん間違いないと思います。だからやっぱりますます(モダン・ミュージックじゃなく)アラブ古典だろうとの判断になりますね。

そんな古典的な編成の伴奏で、いかにもなアラブ・クラシカル・サウンドに乗り、シランが歌っているわけですが、シランのヴォーカルは(いい意味で)ややしょっぱい味がするというか、独特の色香を漂わせていて、しかしあっさり風味。ちょっと線が細いかもな?と思ってしまうような声質ですが、ヴォーカルの節まわしはアラブ古典のそれを身につけていますよね。そこは好感の持てるところです。

ぼく的に、なぜかアラブ音楽の、特に古典の、そのサウンドが聴こえてきただけで気分がいいというかなごめるというタチなんで、ヴォーカルがそこそこ聴ければ、もうその伴奏サウンドだけ聴いていても楽しいんですね。アラブ古典でなくともシャアビ(アルジェリア)みたいなアラブ・アンダルースな大衆音楽も好きで、ぼくにとっての入り口はオルケルトル・ナシオナル・ドゥ・バルベス(ONB)やグナーワ・ディフュジオンみたいなミクスチュア・バンドだったんですけど、そこからどんどん進んで、いまではトラディショナルなサウンドのほうがすっかりお気に入りとなりました。

まったく未知の歌手だったシランでしたけど、イエメンの曲を使いつつ(なんでしょ?)のわりとストレートなアラブ古典音楽にぼくには聴こえ、カーヌーンやウードなどの伴奏に乗ってあっさりと軽くコブシをまわしていくあたり、ジャケットの雰囲気もいいし、なんどもくりかえし愛聴するアルバムになっています。アルバム・ラスト8曲目はウード一台だけの伴奏で淡々とシランが歌います。これもみごと。

(written 2020.8.16)

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