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バート・バカラック追悼(1)〜 ルーマーこそ最高のバカラック歌い

(3 min read)

Rumer / This Girl’s in Love (A Bacharach & David Songbook)

バート・バカラックが亡くなりました。94歳、自宅で自然死ということで、これは思いを残す悔しい死では決してなく、だれも文句をつけられない立派な大往生だったといえるのではないでしょうか。コンポーザーとして歴史的な最上の業績は不滅ですし。

それでなにかやっぱりちょっと聴いとこうと思い、すこし迷って、結局ルーマーのやった一作にしました。『This Girl’s in Love (A Bacharach & David Songbook)』(2016)。ルーマーは最新にして私見では史上最高のバカラック・シンガーです。

声がやさしくておだやか、張ることもなくカドがぜんぜんない丸いヴォーカル・スタイルは飾らず素直で、クラッシーなバカラックのソングブックをつづるのに最適といえるはず。これは実をいうと最晩年のバカラック本人が太鼓判を押していたこと。

じっさいバカラックは本作のタイトル・ナンバーにヴォーカルでゲスト出演しています。歌というよりおしゃべりに近いようなものですけど、ルーマーへの信頼が表れているよう。2016年ですから声をおおやけに聴かせたほぼラストだったのでは。

バカラックの右腕的存在だったロブ・シラクバリ(ピアノ、プロデューサー)を公私とものパートナーとすることになったのも、ルーマーにとって大きなことだったはず。『This Girl’s in Love』もシラクバリのアレンジ&プロデュースで、ほぼどの曲もオリジナルに忠実なサウンドを再現しています。

数曲で特にやわらかいブラス群がスタッカート気味に軽く舞うあたりは、まるでバカラック本人が憑依したんじゃないかと幻聴するほどのクリソツぶり。思うに、ルーマーという史上最も的確なバカラック・シンガーを得て、決定版のようなソングブックを残しておきたいという考えもあったんじゃないですかね。

選曲にしろ代表作が揃っているし、バカラック・ワールドに精通しているシラクバリのつくったサウンドに乗り、美しいメロディを崩さずきわめて丹精&丁寧に整った美声で歌い込んでいくルーマーの本作を聴いていると、あぁここに最上のバカラックがあるじゃないかっていう気分になります。

(written 2023.2.14)

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