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黒人であり女性であるアメリカ人とは 〜 アワ・ネイティヴ・ドーターズ

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Our Native Daughters / Songs of Our Native Daughters

アフリカ系アメリカ人女性四人で結成されたアワ・ネイティヴ・ドーターズ。リアノン・ギドゥンズ、アミジスト・キア、レイラ・マキャーラ、アリスン・ラッセルの四人です。このプロジェクトの発起人でリーダー格にして音楽のアイデアを牽引したのはリアノン(キャロライナ・チョコレート・ドロップス)で、アメリカ合衆国社会で黒人でありかつ女性であるという二重の立場からの発信を行いたいという気持ちがあったみたいです。

その一作目(というか続編があるのか?)『ソングズ・オヴ・アワ・ネイティヴ・ドーターズ』(2019)は、歌詞にもかなり重心を置いていると思いますから英語が苦手なぼくなんかはツラいんですけど、日本人としてはあまりそこを考えすぎず、サウンドやリズム、メロディなどの音楽性から聴きとれることをメモしておきたいと思います。収録曲は8曲目の「スレイヴ・ドライヴァー」がボブ・マーリーのカヴァーであるのと3曲目「バルバドス」でウィリアム・クーパーの詩を引用しているほかは彼女たちのオリジナルのようです。

どの曲もアメリカ社会における(奴隷時代からの)黒人問題、女性の権利問題などを扱っていますが、音楽的にはアメリカーナのことばでくくってもいいんじゃないでしょうか。フォーク、カントリー、ブルーズ、ゴスペルなどアメリカ音楽のルーツ要素が渾然一体となって溶けているように感じます。リアノンの目論見はそれをバンジョーという楽器で象徴させたいというところにもあったようで、実際アルバム・ジャケットでは全員がバンジョーを持っていますよね。

バンジョーという最もアメリカンな楽器の歴史はなかなか複雑で、いまでこそカントリーなど白人系の音楽で多用されるアメリカ白人的な楽器と見なされている気がしますが、ルーツをたどるとこの楽器はアフリカにあるんですね。アメリカ合衆国音楽でも最初は黒人が持ち黒人が演奏する楽器でした。あのツンタカ・サウンドでなじんでいますから意外ですよね。ブラック・ミンストレルで頻用されるのがバンジョーだったんです。

そんなバンジョーはアルバムの全曲で活用されていますが、アルバム1曲目「ブラック・マイセルフ」からテーマが全開。黒人の歴史、黒人としてアメリカ社会で生きるとはどういうことかといったことが、力強いサウンドに乗せてつづられています。その後5曲目の「アイ・ニュー・アイ・クド・フライ」あたりまではやや暗いというか陰鬱な調子の音楽が続いているんですが、アメリカ社会で黒人たちがどんな思いをして生きてきたか、それをつぶさに耳に入れるような心持ちがしますね。

しかし続く6曲目「ポーリー・アンズ・ハマー」からは一転明るく快活な調子が聴きとれて、個人的には安心します。この6曲目は完璧なるカントリー・ナンバーのようにも聴こえますが、実際にはカントリーというよりアメリカーナと呼ぶほうが正しいのでしょう。黒人/白人と音楽がアメリカ大陸で二分化される前の時代の遺産を現代に蘇らせているのだと考えられましょう。そこにこんな感じでバンジョーが入っていますから、このアフリカ由来のアメリカン・インストルメントの持つ意味が拡大しているというか、歴史の根源に立ち返って考えられているんだなとわかります。

打楽器と手拍子だけでチャントが入る7曲目「ママズ・クライング・ロング」に続き、8曲目ボブ・マーリーの「スレイヴ・ドライヴァー」に入ります。ここでもバンジョーが大活躍。イントロのテンポ・ルバート部からただならぬ雰囲気を表現していますが、リズムが入ってきてからもそのレゲエ・ビートを刻むのはバンジョー(とアクースティック・ギター)なんですね。バンジョー・ソロはだれが弾いているんでしょう?奴隷問題を歌った曲ですけど、カリブ地域のこんな歌をとりあげてバンジョー・サウンドに乗せて歌うのはかなり興味深いです。

カリブといえば10曲目「ラヴィ・ディフィシル」はレイラ・マキャーラがフィーチャーされていますが、これもカリビアン・ナンバーですね。レイラは両親ともハイチ出身なのでした。ここで聴けるテナー・バンジョーはこれもレイラの演奏でしょうし、それに(たぶんリアノンの弾く)フィドルがからんだりして、楽しいですね。曲全体の調子やサウンド、リズムはカリビアンです。

アルバム終盤では明るい未来を展望しているというか希望を歌い込んでいるのも好感度大ですね。12曲目「ミュージック・アンド・ジョイ」もそうですし、共感と連帯をつづるラスト13曲目「ユア・ナット・アローン」では歌詞だけでなくサウンドもポジティヴで、ズンズン来るリズム・ヴィーヒクルに乗せ複数のバンジョーがからみあいながら進みつつ、リアノンのヴォーカルにレイラのチェロもオブリガートで入り、ドラム・セットが強いビートを叩き出し、アコーディオン・ソロがぶわ〜っと入ってくるあたりで絶頂に達し、感極まってしまいます。

これに先行するリアノンのアルバムからプロデューサーをつとめているダーク・パウエルがこのアワ・ネイティヴ・ドーターズもプロデュースしています。マンドリン、ギター、フィドル、アコーディオンなど各種楽器も担当し、随所でキラリと光っているし、アルバム全体をこういった方向へ持っていきたいというリアノンと相談を重ね、創りあげたみたいですね。

(written 2020.2.24)

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