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アラビアン・レア・グルーヴ 〜 ハビービ・ファンクの007番が楽しい

(4 min read)

v.a. / Habibi Funk: An Eclectic Selection of Music from the Arab World(Habibi Funk 007)

ハビービ・ファンク(Habibi Funk)とはヤニス・シュトゥルツというひとが主宰するドイツはベルリンのリイシュー専門レーベル。bunboniさんのafter youきっかけで知りましたが、いままでに14作、ぜんぶ「Habibi Funk」というタイトルに数字番号を打ってリリースされていて、サブスクでかなり聴けます。Bandcampにページあり。

ハビービ・ファンクが復刻するのは中近東〜北アフリカといったアラブ世界の音楽、それもアラブ古典とかそれベースのミクスチャ音楽とかじゃなくて、欧米のジャズ、ロック、ソウル、ファンクなどに影響を受けたポップス〜レア・グルーヴばかりなんですね。1970年代ものが中心みたい。

それでSpotifyでざっとひととおり聴いてみて、いちばんぼくの印象に残ったのが007番の『An Eclectic Selection of Music from the Arab World』(2017)というわけですよ。フィジカル買えばそこそこデータがついてくるのかもしれませんが、ぼくはSpotifyで聴いて、それでオッ!と思っただけなんですね。でもホント魅惑的。

1曲目、いきなりのブルーズ楽曲ですが、ロックっぽいですかね。アメリカなんかにはたくさんあるポップ化したブルーズですが、ここではアラビア語で歌われているというだけでなんともいえないフィーリングを感じます。ちょっとヘタウマなバンドの演奏ぶりもなかなか楽しくおもしろく聴こえたりして。

こういうの、いままでアラブ圏音楽のコンピレイションで聴けなかったものでしょう。2曲目もポップで楽しいし(ヴォーカルの味がいい)、3曲目はなんとビートが効いてポップな「エリーゼのために」(ベートーヴェン)。アラブふうかどうかわかりませんが、実際にアラブ世界でも欧米音楽の侵襲があって以後は、こういう折衷音楽がたくさんつくられたんだろうなと思います。

もうこんな3曲目までですっかり心をつかまれてしまいますが、4曲目以後もソウルやポップス、ロックに影響を受けたもの、レバノンのAOR、フレンチ・カリビアンのダンス音楽ズーク、さらにはアフリカの島国カーボ・ヴェルデの海洋系音楽コラデイラ、エレピがきらめくメロウなジャズ・ファンク、ブレイクの入ったアラビアン・レア・グルーヴ、ストレートなボサ・ノーヴァまで、驚くほどに多種多様。

ハビービ・ファンクの “ファンク” っていうのは、たぶんアメリカのジェイムズ・ブラウンやスライ・ストーンみたいなああいったいわゆるファンク・ミュージックのことというよりも、もっとひろく、欧米ポップ音楽(にルーツがあるもの)のことを指しているんじゃないかという気がしますね。

中近東や北アフリカにだって、そういった欧米由来のアラブ・ポップ・ミュージックがたくさんあるに違いなく、いままで1970年代のそういったものはぼくたちにほとんど紹介されずにきたのかもしれません。ドイツのハビービ・ファンク・レーベルは、主催者の現地旅行体験をもとに、アラブ世界にも欧米由来のポップスがたくさんあったことを実感し、それを復刻することに情熱を費やしているんですね。

しかもそれぞれのトラックはすべて本人またはその家族からライセンスを正式に受けた上でリイシューするというちゃんとした姿勢を示していて、そこにも好感が持てます。まだまだ解明の進んでいないアラビアン・レア・グルーヴ、その入り口にはもってこいの好コンピレイションかもしれません。

(written 2020.11.23)

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