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マイルズを深掘りする(2)〜 コロンビア時代アクースティック篇

(5 min read)

マイルズ・デイヴィスの知られざる好演をご紹介するシリーズ、二日目のきょうは、1957年のコロンビア移籍後から、ロックやファンクとクロスオーヴァーしながらエレクトリック路線に踏み出す前までの、アクースティック・ジャズ時代篇です。

きのう書いた初期プレスティジ時代と違って、コロンビア移籍後のアルバムはどんな無名作でもそこそこ知名度はあるんじゃないかと思いますが、それらのなかにも、あるいは超名作のなかにだって、なかなか話題にならない、再生回数が少ない、評価が低い曲というのはあるので、そういったものを中心にとりあげていきます。

カッコ内の数字は、やはり録音年月日。きょうの曲の並びは、基本録音順です。

1. On Green Dolphin Street (1958/5/26)

 ビル・エヴァンズが参加しての初レコーディング四曲を収録したアルバム『1958 マイルズ』から。そのなかではやはり「ステラ・バイ・スターライト」がリリカルな名演として知られていますが、「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」のこの泉のように湧き出るグルーヴ感もなかなかのもの。エヴァンズが最高だけど、ジョン・コルトレインのソロもいいですね。

2. Freddie Freeloader (59/3/2)

 『カインド・オヴ・ブルー』は知らぬ者のいない超名作ですが、2曲目「フレディ・フリーローダー」はそのなかで最も聴かれていないもののようですよ。ところが個人的にこのアルバムではこの曲こそいちばんの好みなんです。なんてこった!歩くようなテンポで軽快にグルーヴするブルーズで、ウィントン・ケリーのピアノ・ソロも快調だし、ボスのトランペット・ソロなんか、完璧な構成です。

3. Teo (61/3/21)

 傑作ではないにしろあんがい人気のあるだろうアルバム『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』ですが、B面のこのスパニッシュ・スケール・ナンバーは、ゲスト参加のコルトレインといいボスといい、壮絶なソロ内容を聴かせる名演じゃないでしょうか。あまり話題になってこなかったのが不思議。コンボ版『スケッチズ・オヴ・スペイン』の世界と言えます。ジミー・コブの細かく入り組んだドラミングにも要注目。

4. I Fall in Love Too Easily (63/4/16)

 きょう書くもののうち、『セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン』が最も知名度も評価も低いでしょう。ほぼ完全無視に近い扱いを受け続けてきている理由は、間違いなくヴィクター・フェルドマンらが参加したロス・アンジェルス録音三曲。しか〜し、それらこそ美しい、すばらしいとぼくは長年思い愛聴し続けてきました。切ない情緒感たっぷりに吹くリリカル・バラードは、本来マイルズの得意とするところじゃないですか。

5. Eighty-One (65/1/21)

 1963年から行動をともにしてきたハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムズに加え、ウェイン・ショーターを迎えて新クインテットとなったマイルズ・バンドの初本格スタジオ作から。1965年のジャズ界にはまだめずらしかった8ビート・ナンバーだからなのかこの曲は評価が高くないですが、実はその後のマイルズの歩みを視野に入れるとき、かなり重要なステップ・ストーンだったのかもしれないと思います。

6. Orbits (66/10/24)
7. Masqualero (67/5/17)
8. Riot (67/7/19)

 いままでほとんど言われてこなかったことですが、『マイルズ・スマイルズ』『ソーサラー』『ネフェルティティ』三作を通して聴くと、1968年以後のマイルズの方向性を踏まえた上での最重要ファクターは、リズムの実験、新感覚ビート・スタイルへの挑戦にあったのではないか、というのがぼくの見方です。トニーのドラミングを軸とする変型アフロ・ラテンな8ビートの活用が、その後の新時代の音楽的革新につながったのではないでしょうか。これら三つのアルバム、決してそういうわけで評価されてきたわけではなかったのですけど。

9) Mood (65/1/22)

 アフロ・ラテン・ビートの熱を冷ましてプレイリストを締めくくるためにこれを。アルバム『E.S.P.』のB面ラストという目立たない位置にありますが、むかしからこのスパニッシュ・スケール・ナンバーのことが好き。ウェインとハービーのは名ソロだと思います。

(written 2021.5.27)

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