見出し画像

ボビー・ティモンズ『ディス・ヒア・イズ』をちょこっと

(4 min read)

Bobby Timmons / This Here Is Bobby Timmons

ビル・エヴァンズとかもいいんだけど、モダン・ジャズでぼくが好きなピアニストといえば、ウィントン・ケリー、ホレス・シルヴァー、ホレス・パーラン、そしてこのボビー・ティモンズといったあたり。ゴスペル・ルーツでぐいぐいアーシー&ファンキーにノリまくるブルーズを弾ける黒人ピアニストたち。

要するに洗練されていながらものクッサ〜イ路線が好きというわけなんですが、きょうもそんななかからまた一つ、ボビー・ティモンズ『ディス・ヒア・イズ・ボビー・ティモンズ』(1960)のことを軽く書いておきましょう。サム・ジョーンズ、ジミー・コブとのトリオ編成です。

ボビーのオリジナル曲が四つ、スタンダードや有名曲が五曲という構成で、やっぱり聴きものはオリジナル・ナンバーでみせるゴスペル・ルーツのアーシーな味わい。アルバム・ラストの「ジョイ・ライド」もボビーの曲ですが、これだけはなんでもないハード・バップ・ナンバー。

だからそれ以外の三曲、「ディス・ヒア」「モーニン」「ダット・デア」ですね。も〜う、ファンキー!これらのうち、おなじみ「モーニン」はこの二年前にみずから属するアート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズのために提供したもので、ホーンズ入りで演奏されるジャズ・メッセンジャーズのヴァージョンですっかりなじんでいますから、ピアノ・トリオで聴くとなんだか妙な気分です。

それにジャズ・メッセンジャーズ・ヴァージョンにおけるボビー自身のピアノ・ソロだけ抜き出したのと同じような内容なので、これは、なんというか、Spotify再生回数が多いですけど、実はどうってことないような気がするんですよね。

やっぱりアナログLP時代にそれぞれ両面のトップを飾っていたアーシー・ナンバー二曲「ディス・ヒア」と「ダット・デア」が最高。曲題も呼応しています。これら二曲はまったく同じ路線。黒人教会ゴスペルの感覚を下敷きにしたアーシー&ファンキーなもので、21世紀ともなればもはやちょっとどうか…というのは、好きなぼくでもやや同感。

敬遠したい気分のときもありますが、それでもこうしてたま〜に、聴いたら聴いたで、やっぱりノレる、気分がアガるというのはたしかなことなので。ソロ後半でがんがんブロック・コードを叩きこれでもかとあおるボビーのファンキー・フィーリングは、1940年代のジャンプ・ミュージック以来のジャズの伝統の一つなんですよね。

個人的には「ディス・ヒア」よりも「ダット・デア」のほうが好みです。

それから、このアルバムで案外いいなと思えるのは、伴奏なしのソロ・ピアノで弾く(パートもある)リリカル・バラードです。泥くさ〜いファンキー路線ばかりでなく、たとえば3曲目「ラッシュ・ライフ」(ビリー・ストレイホーン)や5「プレリュード・トゥ・ア・キス」(デューク・エリントン)、それから7「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」(リチャード・ロジャーズ)など、両手をバランスよくダイナミックに使いながらリリカルに美しく弾くあたり、ボビー・ティモンズというピアニストの実力の幅を垣間みる思いです。

(written 2021.7.3)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?