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ブルーバード・サウンドへのウェイバック 〜 マーク・ハメル

(4 min read)

萩原健太さんに教えていただきました。

マーク・ハメルは1955年生まれの白人ブルーズ・ハープ奏者。その最新作『ウェイバック・マシーン』(2020)はタイトルどおり過去へとまっしぐらのタイム・マシーン的ブルーズ・アルバムで、ジャケットに描かれたクルマがその象徴というかこれに乗ってかつてのオールド・グッド・ブルーズの世界へと向かいましょうって感じですかね。実際、中身は第二次大戦後のエレクトリック・シカゴ・ブルーズ、というよりそのちょっと前のブルーバード・サウンドに酷似しています。

こんな音楽って、もはや時代遅れというか、本当タイム・マシーンにでも乗らないと聴けないようなものかもしれませんけど、このマークのアルバムではそんな世界がそっくりそのまま最新録音で聴けちゃうっていう、それが2020年作だっていう、そんなおもしろさ。音楽も進化しなきゃとか新しくなっていかないととか、そういった考えを金科玉条のように掲げるみなさんにとっては鼻をつまむものかもしれないです。でも時代を経てもかわらないよさっていうものだってあると思いますよ。

どうであれ、たとえ時代遅れの古くさいジジイ趣味と言われようがぼくはブルーズ・ミュージックが大好きなんで、このまま死ぬまで行きますね。マーク・ハメルの『ウェイバック・マシーン』では、たしかに戦後の全盛期シカゴ・ブルーズ的だなと思える部分もたっぷりありますが、ぼくの耳にはもっと前、1930〜40年代のブルーバード・サウンドのほうにグッと近づいているように聴こえます。主役のブルーズ・ハープ(&ヴォーカル)がまずなんたってサニー・ボーイ・ウィリアムスン一世みたいですし、バック・バンドの演奏スタイルもそうです。

特にバレルハウス系のピアノを弾くアーロン・ハマーマンと、ちょっとジャグ・バンドの打楽器っぽいサウンドを中心にやっているパーカッション担当のデイヴ・イーグル、この二名でなんだかバンドをやっているらしいのですが、それはともかく、このマークのアルバムではそんなちょっとしたおふざけテイスト、お遊びジューク・ジョイント・ブルーズ的なユーモア感覚が感じられるのは彼らのおかげもあるのかも。

ちょうどメンフィスらへんで第二次大戦の直前あたりの時期にやられていたような、そんなブルーバード・レーベルのブルーズをいま2020年に復活させたようなマーク・ハメルの『ウェイバック・マシーン』、いやあ楽しいです。こういう音楽こそ聴いてくつろげる、リラックスできるもので、時代の最先端からは何十年も置いていかれていますけど、そんなこと関係ないんだな、いい音楽はいい、それだけ。自分がそれに共感できるんだから、それを信じればいいと思います。

さて、そんなマークの『ウェイバック・マシーン』では、ラスト三曲だけがジョー・ビアードをフィーチャーしたかなり毛色の異なるブルーズになっています。ジョーがアクースティック・ギターを弾き、マークがハーモニカ。おなじみエディ・ボイドの「ファイヴ・ロング・イヤーズ」がこんなドロドロのエグいカントリー・ブルーズっぽい感じに仕上がって、こりゃあいいですねえ。実を言うと、アルバム本編よりもこのジョーの三曲のほうが気に入っちゃったので、それはまた別な機会に書こうと思っています。

(written 2020.2.11)

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