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そばに音楽があればいい

(6 min read)

たとえばマイルズ・デイヴィス。1975年夏の一時引退前はもちろんのこと81年の復帰後もしばらくのあいだ、コンサート・ステージで自分の順番じゃないあいだはバンドの演奏が進行中でもソデにひっこんで休憩しちゃうひとでした。

たぶんタバコ吸ったりボ〜ッとして、べつなことしたり、あるいはスタッフとしゃべたりもしていたかもしれませんが、そんなあいだもステージでバンド・メンバーがくりひろげている演奏はボスとしてちゃんと聴いてチェックしていて、終演後に気になるメンバーを呼んであれこれ指導していたんです。

もちろん自分が演奏しているあいだとか、あるいはスタジオでのレコーディング・セッション中とか、よそ見しながらやっていたわけじゃなかったんでしょうけど、音楽は「音」で(聴力障害がなければ)耳で聴くものですから、だから聴いているあいだ耳だけ集中して、あとは目でなにを眺めていても、手で作業していても、べつにいいんじゃないでしょうか。

耳さえ研ぎ澄まされていればですね。毎朝7時前に起きて毎夜24時すぎに寝るまでずっと音楽が止まらず鳴りっぱなしというぼくのばあいだと、その間、ごはんつくって食事したりトイレとかお風呂とか洗濯とか掃除とか、日常生活があります、当然。

手が空いてゆったりすわっていてもやっぱりネットでソーシャル・メディアのタイムラインを眺めていたり投稿したり、テキスト・アプリでブログ記事を書いたり、とにかくなにかしていますが、なにをしていても音楽はノン・ストップで流れています。だから、集中して聴いている時間とBGM的になっている時間とがありますね。

しかしBGM的なというか流し聴きになっているあいだも、耳は聴こえてくる音楽に集中していて、むろん水を使ったり火を使ったりすれば音が出ますから、重なって背後の音楽のほうはやや聴こえにくくなります。そんなときでも、ふと耳に入ってきた音にハッとする瞬間というのがあって、それをきっかけにアイデアがわき、まとまった文章をしあげることにつながったりも。

音楽キチガイというか音楽中毒者は、片時も音楽がない状態は耐えられないっていう人間でしょうから。ちょうど麻薬中毒者がその血中濃度が下がってくるとガマンできなくなってくるように、音楽が鳴っていない時間というのが考えられないっていう、そういうもんじゃないかと思います。

すくなくともぼくはそう。自宅にいてなにかしている最中にアルバムとかプレイリストの再生が不意に終わって無音楽になったら、とたんに不安になったりイライラしてしまいます。どんなときでも常に聴こえていてほしいから、実際そうしています。

するとですね、ディスクだと再生がいったんは終了する限界時間というのがありますよね。レコードだと片面30分未満くらい、CDならギリギリ詰め込んで最大80分。そこで裏返したり取り替えたりという作業が来ますけど、それがすぐにできない、手が離せない状況というのが日常生活にはそこそこあります。

もちろんサブスクだって、リピート再生や終了後に続けて関連曲を流す設定にしていないなら(ふだんぼくはしない)、短めのアルバムなどはそこで終わるから、また別のものをクリックする必要があります。ってことは本質的にディスクで聴くのもサブスクで聴くのも同じではあるんですが、ディスクだとリピート再生設定なんかはできませんよね。長尺のプレイリストを流しっぱなしにしておくということも、できない。

サブスクで途切れなく音楽を耳に入れていて、だからもちろん流し聴きの時間もあるけれど、毎日数時間はパソコン画面でSpotifyアプリで表示されるジャケット+トラックリストをジッと凝視したまま微塵も動かず、集中して聴いている時間もあります。パソコンが立ち上がっているけれど、SNSもWebブラウジングもなにもしないで、サブスクで音楽だけに集中して聴き込んでいる時間というのがですね、あります。

ディスクだって、パッケージを裏返して眺めたり、ブックレットなどを取り出してテキストを読んだり写真を楽しんだりなどしながら聴いているわけでしょう。ぼくはそうでしたけど、たぶんみんな同じなはず。それがいいんだ(音しかないサブスクに対する)フィジカルの利点だって、いまやみんな言っていますからね。

だから裏返せば、音しかないぶん、サブスクのほうが音楽(オーディオ・データ)だけにじっくり正対して向きあうにはいいのかも?というのも日々痛感していることです。

サブスクだと演奏パーソネルや各種情報、クレジット関係が(一部しか)わからない、ストーリーを語ったテキストも美麗な写真類も付属しないというのは、間違いなく大きなデメリットですけどね。そこはなんとかならないんですか?> SpotifyさんやAppleさん。

(written 2022.2.3)

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