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ベン・ハーパーのラップ・スティール独奏がちょっといい

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Ben Harper / Winter Is For Lovers

アメリカ人ギターリスト、ベン・ハーパー。昨年秋、最新作『ウィンター・イズ・フォー・ラヴァーズ』(2020)が出たときに、それをちょっと意識したにもかかわらず、なんとなくもう一年が経ってしまいました。でも、思いなおしてちょっと書いておきましょうね。

この『ウィンター・イズ・フォー・ラヴァーズ』は、なんとベンのラップ・スティール・ギター独奏のみで全編構成されています。そんなのはキャリア初だとか。冬を思わせるタイトルとジャケット・デザインですが、レコーディングは昨年夏どまんなかの時期だったそう。

中身は夏も冬も関係ない音楽が展開されておりますね。ほとんどの収録曲に都市名や地名のタイトルが付いていますが、それもあとづけのものだったに違いなく意味はなし。おそらくすべてラップ・スティール一本でのテーマを決めない即興演奏を録音したものだと思います。

これがですね、なかなかリラックスできるいい音楽なんですよね。内省的で静かに落ち着いた感じで、ポップさなんかはぜんぜんありませんが、こうしたアクースティック・ギター独奏を聴く層には歓迎されそうです。全編を貫くひとつの統一的なムードもあります。

いまさらアメリカ本土におけるスティール・ギターの由来とか歴史とかを語っておく必要はないと思いますし、実際このアルバムを聴けば、クラシック、ハワイアン、スパニッシュ、カントリー、ジャズ、ブルーズなど、種々のギター・ミュージック・ルーツが、しかもそうとはわからないほど渾然とスープ状に溶け込んで一体化しているのを、ギター・ミュージック・ファンなら感じとることができるはず。

ベンがこうした室内楽的な独奏アルバムを制作しようと思った最大のきっかけは、もちろんコロナ自粛でしょう。昨年夏の録音ですし、みんながステイ・ホームで静かに過ごしていた時期。そんな自粛期にバンドで集まってセッションすることはむずかしいので、じゃあ独奏で、っていうことになったのでしょう。

できあがった音楽も、まだちょっとは続くのかもしれない自粛期間の、その自宅でのくつろぎのおともにちょうどいいムード。もうそろそろコロナ禍も先が見えつつあるのかもしれませんが、明けたら明けたで自室でのひとりの時間、コーヒーでも飲みながら、こうした音楽でまったり過ごすというのもいいかなって思います。

(written 2021.10.18)

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