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どこまでも自然体のまろやかな老境 〜 ボニー・レイト

(3 min read)

Bonnie Raitt / Just Like That…

なぜか楽しくてくりかえし聴いてしまうボニー・レイトの最新作『Just Like That…』(2022)。っていうのはそもそもこのひとそんなに大好きというほどじゃなかったのです。それもおかしな話、こういったブルーズ・ロックはどう考えてもぼくの嗜好どまんなかのはずなのに。

それなのにいままではボニーのどのアルバムを聴いてもあまりピンときたことがなく。決してつまらないなんてことはなかったけれど、ふ〜ん…っていう感じで、惚れ込んで聴きまくったっていう経験がなかった音楽家なんですね。ホントなぜだろう?自分でもわかりません。

それでもこの最新作で聴ける、どこにもムダな力の入っていないきわめて自然体な音楽姿と、それでいながらぼんやりしてなくてタイトに引きしまったバンド・サウンドは、いまごろになってようやくこのミュージシャンが大好きだと思えるだけの魅力があります。

個人的には、ファンキーでグルーヴィな6曲目「ウェイティング・フォー・ユー・トゥ・ブロウ」、気怠るそうにブルージーなスロウの7「ブレイム・イット・オン・ミー」あたりの流れが、本作でのいちばんの聴きどころと思えます。そして、これら二曲ではハモンド・オルガン(グレン・パッチャ)が目立ってすばらしい。

まさしくブルーズ音楽をやるベテランのうまみが発揮されているわけですけど、バンドの演奏もボニーのヴォーカルもしっとり落ち着いていて、きわだってまるやか。けっこう隙間の空いたラフでラクなサウンドなのも心地よく、でありかつタイトにグルーヴしているっていう、ほとんど奇跡と思えます。

迫力で圧倒したりなんか絶対にしないこんな境地、いかなボニーでもこの老歳になったからこそ実現できたものかもしれませんが、いや、ふりかえって考えてみたらこの音楽家はもっとずっと前から同じこんな自然体な姿勢で音楽をやり続けていたじゃないかと思え、つまりは聴き手のこちらのほうがようやく追いついただけってことか。

アルバム全編で本人のスライド・ギターも冴えた音色で鳴っているし、しんみりとおだやかにアクースティック・サウンドで決めたものも複数あり、それになにより声の質感がナチュラルでとってもいいですよね。すっと軽く歌っているだけでしょうが、そんな日常的なありようがそのままこうした上質な音楽になるというのが音楽を生きている人間のあかしです。

(written 2022.6.27)

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