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最良のチャイニーズ・ポップス 〜 孙露 in 2022

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以前八月はじめだったかな、孙露(スンルー)2022年の最新作(とあのころは思っていた)『忘不了』のことをとりあげて褒めましたけど、そう、ぼくはもうこの遼寧省出身の中国人歌手にすっかり骨抜きにされていて、正直なにされてもかまわない、この身をすべて捧げたいと思うくらいなんですね。

しかしこの後もSpotifyの新作案内プレイリスト『Release Rader』で毎週のように(は誇張だけど)孙露の新作っぽいものがどんどん載るもんだから、いったいどうなってんの?今年この歌手はそんなリリース・ラッシュなの?といぶかしんでいました。

アルバムにして合計四作『城市民谣』『放你在心里』『明天你是否依然爱我』『当爱已成往事』と週替わりで出てきて、どれも “2022” となっているし、『忘不了』を入れたら今年五つ出した計算になるんです、孙露は。Spotifyでは。

いくらなんでもこれは妙だと気がついて、中国情報ならここっていう百度百科で調べてみました。すると、まずいちばん最初に『Release Rader』に出現した『忘不了』は2019年のCDリリースとなっています。

その他、順番に『城市民谣』が2018年、『放你在心里』が2020年、『明天你是否依然爱我』が2021年、『当爱已成往事』だけはまだ新しいってことかサイトの更新が追いついていないのでしょう載っていませんでしたから、それが最新作ってことでしょうか。

ともあれ、近年の孙露が豊穣だということには違いありません。もとから多作な歌手ではありましたが、ここ数年の活躍ぶりには目を見張るものがあって、Spotifyには今年入ったばかりな五つのアルバムどれを聴いても納得の充実感。

この歌手の特質は上でリンクした過去記事や、昨年ぼくがこの歌手と衝撃的だったといってもいいくらいなフェザー・タッチで出会い、なでられ、心底とろけちゃった『十大华语金曲』(2017)のときに書いた記事で、すでに説明し尽くしたという気がします。

いまどきの新世代歌手ではありますが、ヴォーカル・スタイルにはわりと古風なところもあって、しっかり声を張り抑揚をつけてオーソドックスにメロディの上下を表現することもあります。そのへんは曲によりアルバムにより歌い分けているような印象ですね。

それでもコブシ系ではぜんぜんなくって(しっかりメロディを歌うときでも)ヴィブラートなどまったく使わずストレートにすっ〜となめらかな発声をするのは新世代的なフラットネス&おだやかさ。中低域寄りで仄暗くただようハスキーさは退廃的で陰で、それもぼくには魅力です。

いずれのアルバムも、だれが選曲やアレンジやプロデュースをやっているのか?というたぐいの情報が見つからないんですが、伴奏も生音中心のさっぱりオーガニックで淡色系なのは孙露のヴォーカル特性にあわせているということと、ここ10年くらいのグローバルなトレンドだからでしょう。

きわめて個人的には、生涯で知ったなかで最良のチャイニーズ・ポップスだと思えてならず、さほどなじんでいた分野じゃなかったんですが、孙露に会えるんだったら、ナマ歌を聴けるんだったら、中国まで行きたい!という気持ちになってしまうくらい。細かなブレスの一個一個の息の音までいとおしくてたまらず。

薄味淡色系のおだやかで静かなポップスを好むようになった近年のぼくの前に出現した最高の音楽じゃないかと、古今東西世界 No.1だと、いまは思っていますね、孙露のことを。もう女神。

(written 2022.10.9)

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