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シュートできるように導いたチームがすごいのさ 〜 スティーヴ・クロッパー

(4 min read)

Steve Cropper / Fire It Up

ご存知スティーヴ・クロッパー。四月ごろだったかな、今年(といってもこの記事が上がるのは2022年になるはず)の新作『ファイア・イット・アップ』(2021)がリリースされたとき、ちょっと話題になっていました。年齢と、10年ぶりの新作アルバムということと、それでも内容がしっかりしていたのとで、感心したひとが多かったはず。

クロッパーのギター・スタイルといえば、いまさら説明の必要などありません縁の下の力持ちというか組み立て役っていうか、決して派手なソロを弾きまくったりしませんが、いやソロも弾くけどリフやオブリの延長線上みたいなもので、たいていは曲の土台にあって地味だけど欠かせない基礎工事を黙々とこなすという、そういうギターリスト。

このことは往年のスタックス時代から現在にいたるまでまったく変わっておらず、新作『ファイア・イット・アップ』でも存分に堪能できます。いや、堪能というのもおかしいような、フロントで歌うわけじゃなし(今回ヴォーカルはロジャー・C・リアリ)、バック・バンドのサウンドにフォーカスしてもあまりよくわからない程度(は言いすぎ)。

だけど存在感がたしかにあるという、そんな脇役ギターリストとして生涯を送ってきましたよね。それはクロッパーが参加しているいままでのソウル系音源を聴くだけでわかっていたことですが、今回の新作について自身が語ったことばがあります。いわく:

「バスケット・ボールのチームが勝つとき、3ポイント・シュートを入れた選手がすごいわけじゃない、彼がシュートできるように導いたチームがすごいのさ」

どうですか。まさしくクロッパーの音楽哲学をみずから言いあてたセリフじゃないですか。

スポーツのチーム競技(音楽も多くはそう)には、勝利に導くためにお膳立てをする組み立て役の選手が必ずいます。野球でいえばバンバン三振を奪取する豪速球ピッチャーや大きなホームランを打ちまくる強打者「じゃない」、脇役の選手。

ピッチャーが実力を発揮できるよう配球を考え組み立ててサインを出すキャッチャー、配球や打者の傾向に応じて一球ごと絶妙に守備位置を移動する内外野手、得点につながるような進塁打をコツコツこなすつなぎ役。

サッカーでいえば、華麗にシュートを決めてみせるアタッカーにはもちろん見惚れますが、そこにいたるまでの中盤の組み立て役がいないとフィニッシュへ持っていけないわけで。

サッカー日本代表元監督だったボスニア人のイビチャ・オシムも「井戸を掘る役目」「水を運ぶ役目」が必要で重要だと、ことあるごとにくりかえしていましたね。

音楽でスティーヴ・クロッパーがこなしてきた役目、美学というのはまさにそういうことで、上記引用のとおり自身がバスケになぞらえて明言してくれたことで、あぁ、はっきり意識しているんだな、それも明確なプライドをそこに持ち続けているんだということもわかり、なんともうれしい気分です。

バッキング・ギターリストとしての美学に貫かれたクロッパーのギター・プレイを存分に楽しめる新作『ファイア・イット・アップ』、あくまでもチームとして、バンドとして力を合わせた一作に仕上げようという思いが強く感じられて、それでこそすばらしいんですよね。

こういう音楽家に惹かれます。

(written 2021.12.9)

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