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新感覚なハード・バップ 〜 シモン・ムリエ新作

(2 min read)

Simon Moullier / Isla

2020年のデビュー作『Spirit Song』をぼくもとりあげて書いたジャズ・ヴァイブラフォンの新鋭シモン・ムリエ。三作目にあたる最新アルバム『Isla』(2023)は個人的にずいぶん心地よく聴けるストレート・ジャズで、しかもなんだかひんやりさわやかなフィールがあって、いいねえ。

マーサー・エリントンの「Moon Mist」とスタンダードの「You Go to My Head」以外はシモンの自作。それをピアノ・トリオを伴奏につけたカルテット編成でシンプルに演奏していく姿には、バップ由来のジャズ伝統を大切にしながら2020年代的な新風も吹きこんでいるさまがハッキリ表れています。

滑舌のいいあざやかなマレットさばきを聴かせるシモンのプレイがやっぱりすばらしいですが、同じくらい今作で注目したいのはキム・ジョングクのドラミング。キムはシモンの三作すべてで叩いていますが、人力演奏でありながらコンピューター打ち込みでつくったようなマシン・ビート感があります。

ヒップ・ホップ以後的な感性を生演奏ドラムスに反映させているというわけで、ここ15年以上そうしたドラマーが増えているというのも事実。カッチリしたキムのビート・メイクは、バンドが従来的な枠組みのなかでメインストリームなジャズを演奏していても、そこにコンテンポラリーな色彩感をつけくわえるものです。

でありながらきわめて自然で、カルテットによるジャズ演奏としてすっと聴きやすい明快さがあり、書きましたようにモダン・ジャズの伝統を大切にしていますから、シモンは、なのでコンテンポラリーなセンスで演奏しながらも目新しさがそんなにきわだたず、いかにも更新してますみたいなてらいになっていないのが好感を呼ぶところ。

個人的にことさら気持ちいいなと感じたのは4「Enchantment」と7「Phoenix Eye」、特に後者です。シモンのオリジナルですが、みんながよく知っているスタンダード・ナンバーのフィールがあって、要するにハード・バップ・ナンバー。なのにドラマーの叩きかたは新感覚で、しかもバンドの演奏がサクサク心地よいのです。

(written 2023.5.19)

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