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ジョー・ビアードの世界(1)〜『ブルーズ・ユニオン』

(3 min read)

Joe Beard / Blues Union

以前マーク・ハメルの記事で言及したブルーズ・マン、ジョー・ビアード(Joe Beard)。ニュー・ヨーク州ロチェスターのベテランです。マークのあのアルバム『ウェイバック・マシーン』終盤にあった三曲はジョーのアクースティック・ギター弾き語りで、ドロドロしたエグ味のあるカントリー・スタイルのダウンホーム・ブルーズを聴かせてくれるものでした。

こういうのが本当にいいなぁとしみじみ感じて、ドバーっとまとめて聴きたいと思って Spotify で検索しても、ジョーのアルバムはモダン・エレクトリック・ブルーズばかりが、しかもちょっとだけ。アクースティックな弾き語りブルーズでジョン・リー・フッカーみたいなのはぜんぜんないんです。YouTube でさがすとテレビ出演なんかがほんのすこしだけ見つかりましたが。

それはそれでいいやと気を取りなおして Spotify でジョー・ビアード1996年の『ブルーズ・ユニオン』を聴きました。ギターリスト、ロニー・アールとの共演盤ですね。内容はほぼ全面的にバンド編成でのエレクトリックなモダン・シカゴ・ブルーズのスタイルだと言えましょう。でもぼくがジョー・ビアードに惚れたジョン・リー・フッカーみたいな(エレキだけど)ギター弾き語りが一つもないわけじゃありません。

アルバム『ブルーズ・ユニオン』だと、5曲目の「サリー・メイ」、10曲目の「レイト・イン・ジ・イヴニング」が伴奏なしジョーひとりでのギター弾き語り。前者はフッカーの曲ですね。ジョーが使っているのはエレキなんですけど、ドロドロの泥臭いエグ味を発揮していて、聴き惚れます。これですよ、こういうのが聴きたかったんです。全体的にバンド編成でやっているアルバムのなかにもこうやって二曲あるんだから、制作側としてもジョーをそういったブルーズ・マンとみなしているんでしょう。

個人的にはアルバムまるごとぜんぶがこういったのならいいのにと思うほどですが、ふつう一般的にはそれじゃあウケないっていう判断なんでしょうね。好みはそれぞれですが、一枚くらいそんなアルバムがあってもよかったんじゃないかと、しつこいですがぼくは思います。それが制作できないのは時代もあるんでしょうか。ジョン・リー・フッカーみたいなひとですら晩年はバンドでやっていました。

ブルーズ・マンの表現するブルージーさ、エグ味、ドロドロしたとぐろを巻くような世界、それをギター一台だけでの弾き語りで表現するときの孤独感、そういったものこそブルーズの世界の醍醐味のひとつだと思うんですけど、でもバンドで楽しくやって歌い、ソロを弾き、ほかの楽器にかこまれてにぎやかにやる、またそれもひとつのリアル・ブルーズですね。

アルバム『ブルーズ・ユニオン』では、またサックス(デイヴッド・ファットヘッド・ニューマン)がソロを吹く二つ(4、8曲目)では、ピュア・ブルーズというよりリズム&ブルーズ/ソウル・ミュージック寄りのサウンドになっていて、それもおもしろいところです。それでふりかえってみれば、サックスが入らないものでも、すこし B. B. キングっぽいモダンなファンキー感覚もあるような気がしてきました。

(written 2020.2.20)

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