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こうした音楽を心の灯にして残りの人生を送っていきたい 〜 カーティス・メイフィールド『ニュー・ワールド・オーダー』

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Curtis Mayfield / New World Order

これからはこうした音楽を心の灯にして残りの人生を送っていきたいと心底思えるカーティス・メイフィールドの最終作『ニュー・ワールド・オーダー』(1996)。まえもそんなこと書きましたが、心身がつらくしんどいときに聴きなぐさめられ、いっそう身に沁みるようになりました。

それはこれが音楽家人生の終末期に製作されたメランコリアに満ちた作品であるというダークな諦観のトーンに支配されているからだけではなくて、いやそうだからこその人生肯定感、人間への応援歌・讃歌のように聴こえるからでもあります。

ジャケットに写るカーティスの顔写真がすべてを物語っているようにも思いますが、死と再生をテーマにした1曲目「New World Order」からアルバム末尾までこのダークなトーンは一貫しています。明るく快活な曲もありますが、それらにしたって深みのある落ち着きが聴かれるでしょう。

ソングライターとしても歴史に名を残すカーティス、代表的過去曲のセルフ・カヴァーが二曲ふくまれているのも耳を惹きます。6「We People Who Are Darker Than Blue」、11「The Girl I Find Stays on My Mind」。前者1970年のオリジナルはもちろん黒人差別を扱う曲だったのが、ここでは老齢期ならではのメンタルの暗さのことを歌っているように思えます。

そうとらえないとこのレンディションのダーカーでしんみりしたトーンは理解できないと思います。ぼくだってそうだとわかるようになってきたのは還暦を越え心身の衰えに直面するようになってからですもん。ここで歌っているカーティスの心境はいかほどだったか、想像するに余りあります。

インプレッションズ時代の「ガール・アイ・ファインド」にしたって、こんど見つけた新しい女の子が気になるけど、いままで全員が去っていったからやっぱりそうかもと思うと踏み出せないっていうこの主人公の心境は、ASDと自覚するようになったコミュニケーション不能症のぼくには心芯からよく理解できます。

しかもここのヴァージョンをカーティスがここまで静かに歌うとき、そこにあるのは恋愛関係なんかもう自分の老齢人生に関係ないんだ、もはやどうにもならないというあきらめと落ち着きであり、でもなんかちょっと気になっちゃって…というアンビヴァレンスでしょう。

だからこそ、いまのぼくの内面には深く深く沁み込んでくるものがあるんです。これに続くアルバム最終盤の二曲もダークネスが支配していますが、困難な道を歩んできた音楽家にしか表現できない深みがあり、そんな闇に支えられるかたちでの輝き、ライフ・イズ・ビューティフル宣言でもあるのです。

(written 2023.7.13)

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