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復帰後マイルズのベスト・パフォーマンスはこれ 〜「タイム・アフター・タイム」in 東京 1987

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Miles Davis / Time After Time (1987, Tokyo)

1981年復帰後のマイルズ・デイヴィスが84年からライヴで頻繁に演奏しはじめ、同年にスタジオ正式録音もしてアルバム『ユア・アンダー・アレスト』(85)に収録発売されたシンディ・ローパーの名バラード「タイム・アフター・タイム」。

結局亡くなった1991年までこれを演奏しなかったライヴ・ステージは(企画ものなどを除き)およそ一つもなかったとしても過言ではありませんから、ラスト10年のマイルズを代表する一曲だったでしょう。

だから、なんらかのかたちで録音されたものだけでも星数ほどあるマイルズの「タイム・アフター・タイム」のそのなかでも1987年7月25日、東京でのライヴ・アンダー・ザ・スカイで演奏されたヴァージョンはひときわスペシャルです。

これこそがぼくが耳にした範囲ではマイルズによる同曲のベスト・パフォーマンスに違いなく、復帰後マイルズの最高名演といえるもの。まるで天から音楽の神が降臨しているかのような演奏ぶりで、マイルズだけでなくバンド全員にミューズが取り憑いていたとしか思えません。

特にMIDI同期のキーボード・シンセサイザーを弾くロバート・アーヴィング IIIが絶品。こんなフレイジング、一曲にわたって切なさ爆発しそうですが、事前にかっちりしたアレンジが用意されていたかも?と思えるほど同じモチーフを反復しながら一貫して整っています。

ライヴでは事前のアレンジやリハーサルを嫌うマイルズで一度もやったことがありませんでしたから、これもその場だけの即興だったのだと思うとますます鳥肌が立ちますね。それはバンドのみんなに言えること。リッキー・ウェルマン(ドラムス)のフィル・インもみごとです。

そしてマイルズのハーマン・ミューティッド・トランペット。キーボード・イントロに導かれまず吹く最初の第一音からして狂っています。どこからこんなフレーズが浮かぶのか?本編歌メロとはなんらの旋律関係もないプレリュードなんですが、そのパートの組み立てが天才的。これも即興なんですから、やはり神が降りていたでしょう。

歌メロ部に入り、どこまでも切なくリリカルに、歌詞の意味をじっくりかみしめるように淡々ときれいに吹いていくマイルズの美と、巧妙なフレイジングで寄り添うロバート・アーヴィング III。

そしてそのままの雰囲気を保ったままサビに入った刹那、いきなりマイルズはミュート器を外し、ぱっとオープン・ホーンで吹くんです。あたかもみずから抑制していたエモーションを瞬時解放するかのごとく、ただよいながら高らかに舞います。

しかしそれはサビだけ。終わるとその後はふたたびハーマン・ミュートをつけクールな世界へと戻っていきますが、サビだけオープンで吹いたドラマにはとても強い音楽的必然性と意味が感じられ、一音の過不足もない表現のなかにタイトにおさまっているというのが、晩年のマイルズにしてはありえないと思えるほど至高の美的構築品。

Miles Davis - trumpet, keyboards
Kenny Garrett - alto sax, flute
Foley - lead bass
Robert Irving III - keyboards
Adam Holzman - keyboards
Darryl Jones - bass
Ricky Wellman - drums
Mino Cinelu - percussions

  1. One Phone Call / Street Scenes

  2. Human Nature

  3. Wrinkle

  4. The Senate / Me and U

  5. Tutu

  6. Splatch

  7. Time After Time

(written 2022.2.19)

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