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森恵(2)〜『Grace of the Guitar』シリーズ

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森恵 / Grace of the Guitar
/ COVERS Grace of the Guitar+
/ COVERS2 Grace of the Guitar+

森恵のギター弾き語りによる名曲カヴァー集三作、『Grace of the Guitar』(2013)、『COVERS Grace of the Guitar+』(2016)、『COVERS2 Grace of the Guitar+』(2020)。ぼくが森恵を知り好きになったのは一作目に収録されている「プレイバック Part 2」をプレイリスト『山口百恵 やまぐちももえ』で聴いたからでした。だからこれらの弾き語りカヴァー集もぜんぶ聴いてみたんです。

これら三作はシリーズ・タイトルどおりギター、それもアクースティック・ギターに焦点を当てフィーチャーしているものですし、聴いてみてもやっぱり森のギターの腕前にうなります。森はフェンダーとアーティスト契約を結んでいる日本人四人のうちの一人で、さらにギルドとは日本人初のエンドースメント契約も結んでいます。これら老舗ギター・ブランドもギターリストとしての森の実力を認めているわけですね。

『Grace of the Guitar』シリーズでもわかりますが、森のギターは一音一音がくっきりと粒立ちよく立っている、際立ちがいいというのが大きな特徴ですね。エッジの立ったようなといいますか、輪郭が鮮明ですよね。右手のピックング・アタックがしっかりしているせいなんじゃないかと思いますが、左手の押弦も揺るがないものであるがゆえにどんな音も、コードも、音がぼやけないです。クリアですよね。だから森のギターを聴いていると気持ちいいんです。

さらにカヴァー・ソングばかりということで、オリジナルやすぐれたカヴァー・ヴァージョンが存在する世界ですから、森がどんなふうに歌っているかといったことも着目されると思うんですけど、この声の存在感の強烈さには降参します。きのうも書いたんですけど森の声には強さ、鮮明なカラーリング、艶があって、声がポンと前に出てきます。ひとことにして迫力のあるヴォーカルといいますか、歌のほうもなかなか得がたい魅力を持った存在だと思うんですね。

きょうのこのシリーズだと、たとえば一作目にある「木蘭の涙」(スターダストレビュー)なんかこんなにもいい曲なんだと森にはじめて教えてもらったような気がしますし、「グッド・バイ・マイ・ラブ」(アン・ルイス)も「涙そうそう」(BEGIN)もしっとりしていて、ギター中心のアレンジもいいけど、ヴォーカルもふくめ全体的に曲のよさを聴き手に伝えることのできる強いパワーを備えているなと感じます。なお、一作目でも若干の(ギターやウクレレなど)弦楽器ゲストがいるみたいです。

二作目になればピアノなどが伴奏に入る曲も増え、サウンドに幅とヴァラエティを持たせようという意図が伝わってきますが、それでも「異邦人」(久保田早紀)や「落陽」(吉田拓郎)、「残酷な天使のテーゼ」(高橋洋子)などで聴ける森のアクースティック・ギターのサウンドはあざやかで、はっと目を見張るような驚きもあり、かなりの聴きものです。ヴォーカルはいつもどおり強力ですし。

曲がいい、ギターもヴォーカルもみごと、伴奏アレンジだってきれい、という意味では「真夜中のドア〜Stay With Me〜」(松原みき)がシリーズ二作目のなかでも白眉でしょうね。森のヴォーカル&ギターのほかにはやわらかいエレピ・サウンドだけということにしたアレンジもすばらしいですし、なんたってこれは曲がいいんですね。それを存分に活かせる森の資質にも着目です。

三作目の『COVERS2』になると派手なバンド・サウンドが増えて、アクギ弾き語りという森の原点からやや離れている面もありますが、ふだんこういった音楽もどんどんやっているのでしょう。「氷の世界」(井上陽水)なんかかなりいいです。アルバム中盤以後の「三日月」(絢香)、「メロディー 」(玉置浩二)あたりの弾き語りは本当にグッと来ますよね。特に「メロディー 」、曲が切なくてとてもいいからっていうことではあるんですが、この哀しい曲をしっとり弾き語りでここまでやれる森も文句なしでしょう。チェロ伴奏も沁みます。

そしてこの三作目でかなりいいぞと感じたのは、実はラストに収録されている森のオリジナル曲「そばに」です。森はカヴァー・ソング集四作のすべて、末尾に一曲づつオリジナルを収録しているんですけど、このギター弾き語りによる「そばに」は絶品じゃないでしょうか。このヴァージョンでは声もいいんですけど、なんたってギター演奏がすばらしいと耳をそばだてました。サウンドがまろやかで、しかも同時にくっきりとした粒立ちのよさが目立ちます。しかも徹底的にていねいな弾きかたで、こんなアクースティック・ギターの音はなかなか聴けないように思います。

(written 2020.6.3)

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