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今年のレコード・ストア・デイで発売されたマイルズ・ファンク

(4 min read)

Miles Davis / Turnaround: Rare Miles from the Complete On the Corner Sessions

こんなのいつ出たんだ?マイルズ・デイヴィスの新コンピ『Turnaround: Rare Miles from the Complete On the Corner Sessions』(2023)。調べてみたら、今年四月のレコード・ストア・デイ用の商品としてリリースされたものらしいです。へえ。

ちょっとした拡大アナログ・シングルみたいなもんで、もちろん四曲すべて『The Complete On the Corner Sessions』(2007)が初出の既発音源をそのまま再録。だけど器が変われば気分も違うってわけでしょ。レコード一枚サイズだし。サブスクにもあったので、ささっと聴いてみましたよ。カッコ内は録音日付↓

1 Jabali (1972/6/12)
2 U-Turnaround (1972/11)
3 The Hen (1973/1/4-5)
4 Big Fun / Holly-wuud Take 3 (1973.7.26)

「レア」ってことなんですけども、たしかにね、『オン・ザ・コーナー』ボックスが出たときにトータル六枚すみずみまで漏らさずなんども聴きまくって体に染み込ませたぼくみたいなファンがかなりの例外的特殊人間ってことでしょうから、世間一般ではレアな知られていない四曲でしょう。

そもそもこの1972〜75年時期のマイルズ・スタジオ音源って、当時リリースされていたのが『オン・ザ・コーナー』と『ゲット・アップ・ウィズ・イット』だけで、『ビッグ・ファン』もあったけどこれからしてすでに蔵出し音源集みたいな趣でした。

とにかくマイルズの70年代はLP二枚組ライヴ・アルバムばっかりで、スタジオ音源はちょっとしか公式リリースされていなかったんです。CD時代になってからだって一連の(コンプリートと銘打った)ボックスものが出るまでまるまるごっそり眠ったままで、大部なボックスなんて一曲一音づつ細かく分析的に聴くひとあまりいませんしね。

ですから『オン・ザ・コーナー』『ゲット・アップ・ウィズ・イット』『ビッグ・ファン』未収録のものはすべて2023年時点でもレア音源ってことになるかもしれないです。そ〜りゃもう膨大な量があったんですよ。メイジャーなレコード会社(当時のマイルズはコロンビア)の一般的販売ペースだと出しようもなく、お蔵入りさせるしかなかったもの。

それらのなかにはじっさい聴いてみればかなり充実したものがたくさんあったというのが今回の『ターナラウンド』でおわかりいただけるかと思います。個人的にはあっさり淡白趣味へと変貌してしまいましたから、このへんの荒々しいマイルズはまず聴かなくなっていますが、夢中だったころに皮下骨髄まで浸入させたサウンドをすみずみまで鮮明に記憶しています。

好みだけでいえばB面の二曲がけっこういい(な気分のときなら)。B1「ザ・ヘン」はファンクというよりロック・チューンに近い質感で、ビート・スタイルもそうだしギターのサウンド・メイクもそう。マイルズはトランペットを多重録音しています(二本聴こえる)。

B2「ビッグ・ファン/ホリー・ウード-テイク3」は、これをソースに二曲のシングル「ビッグ・ファン」「ホリー・ウード」が抽出され、シングル盤の両面となって73年にリアルタイム発売されたもの。その元音源です。

それらシングルの風のような軽ろみのあるさわやかさに比べたら、元音源はイマイチ重たい土ぼこりフィール。当時のマイルズ・ファンクとしてはそのほうが普段着の真実に近かったなとは思います。

(written 2023.6.28)

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