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聴いたことのない音楽を聴きたい 〜 ウェザー・リポート「キャン・イット・ビー・ダン」

(3 min read)

Weather Report / Can It Be Done

このリンクはウェザー・リポート1984年のアルバム『ドミノ・セオリー』ですが、そのオープニング・ナンバー「キャン・イット・ビー・ダン」が最高にすばらしいと思うんですよね。ずっと前にも言ったことですが、このバンドのNo.1傑作曲だとぼくは信じています。

でもそんなことを言っているジャズ・リスナーやウェザー・リポート・ファンっていままでぜんぜん見たことないです。どこにもいないみたい。ぼくだけの感想、というか信念なんでしょう。だいたいこれヴォーカル・ナンバーだし、そもそもジャズですらない。ソウル・ナンバーに違いない真っ黒けな一曲です。

そこがいいと感じているんですよね。独裁者だったジョー・ザヴィヌルは1960年代のキャノンボール・アダリー・バンド時代からそういう資質の音楽家だったというのが、ここではフルに発揮されています。でも曲はザヴィヌルのものじゃなく、ワイルド・マグノリアスなどニュー・オーリンズ・ファンクのウィリー・ティーがこのアルバムのために書いた当時の新作。どういう接点があったんでしょうね。

ともあれこの「キャン・イット・ビー・ダン」、歌詞も強く共感できるもの。この世にまだ出ていないメロディ、まだ聴いたことのない音楽というものはどこにあるのだろう、ないみたいだけど、それをずっとさがし求めているんだ、という、メタ・ミュージック的な視点を持った一曲。

歌うのはカール・アンダースン。ジャズやフュージョンのファンにはなじみがない名前かもしれませんね。ぼくだって『ドミノ・セオリー』ではじめて聴きましたが、タメとノリの深いソウル・グルーヴを表現できる歌手で、84年時点で一聴、惚れちゃいました。

この曲、バンドはほとんど出現の機会がなく、たぶんこれ、オマー・ハキムがハイ・ハットでずっと一定の刻みを入れている(&ちょっとだけスネアも使う)以外は、多重録音されたザヴィヌルのキーボード・シンセサイザーしか入っていませんよね。だけどそれが絶品じゃないですか。リリース当時マイルズ・デイヴィスも「あのジョーのオルガンを聴いたか」と絶賛していました。

もう音色メイクが文句なしによだれの出るセクシーなもので、フレーズも曲のメロに寄り添いながらそれをひろげたり深めたりして、空間を埋めていくかのようでありながらふんわりとただよい、適切な間を感じさせる絶妙なもの。

曲がすばらしいのと歌手の声が深いのと最高なキーボード伴奏との三位一体で、もちろんウェイン・ショーターもだれも参加していませんから「ウェザー・リポートの曲」というにはやや躊躇を感じないでもありませんが、それでもこれだけのグルーヴの前にはひれふすしかありませんよ。

(written 2022.4.26)

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