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レイヴェイの闊達自在なレトロ・ポップ・ワールド 〜 新作『ビウィッチト』

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Laufey / Bewitched

愛するレイヴェイの新作『Bewitched』(2023)が9/8に出たばかりですが、それにしてもかなりのリリース・ペースですよねえ。ファースト・アルバムが昨夏で、一ヶ月後に『The Reykjavík Sessions』があり、秋にやったフル・オーケストラとの共演ライヴが今年初めに出て、九月にはもう新作ですよ。

ともあれ『ビウィッチト』はかなり注目されていて、フィジカルがまだなのにサブスクで大ヒット街道を爆進中。本人も大活躍しているし、二年前にデビューEPをインディでリリースしたころほとんど話題にならなかったことから考えたらもうまるで別世界の住人みたいですよ。

今作は全体的にかなりクラシカルなテイストの強いレトロ・ポップに仕上がっていて、曲はスタンダードの「ミスティ」を除きやはり自作。それがまったくグレイト・アメリカン・ソングブックの世界そのまんまっていうか、この手のものを書かせたらレイヴェイ以上の存在はいないだろうと確信できるほどですよ。ある種異常な才能と思えるくらい。

1950年代ごろの〜〜シスターズ的な世界を模した1曲目「Dreamer」は、こんなふくよかな女性ヴォーカル・コーラスをいままでレイヴェイは使ったことないだけに、新しい世界だなとやや驚きます。もちろん音楽的には完璧にレトロなおなじみのもの。コーラスは一人多重録音かも。

個人的に特にぐっときたのが3「Haunted」。ボサ・ノーヴァながらクラシカルなサウンドを持っていて、自身がギターで弾くヴォイシングはジョアン・ジルベルト直系だと思わせます。ビートが入ってきてからがなんとも心地よくて、これ最高だなあ。

全体にレトロ・ジャズ・ポップがならぶなか、なぜか6「Lovesick」だけはロック・チューン。これもいままでのレイヴェイにはなかったチャレンジです。しかしこれとてコンテンポラリーではなく、ビートルズとかビーチ・ボーイズを思わせる1960年代風味満載の一曲ですけどね。だからレトロ・ロックというべきか。

インタールードとしてはさまれているピアノ・ソロ・インストの9曲目も立派なできばえで、その後はシングルで先行リリースされていたものが続きます。そしてラストのタイトル曲「Bewitched」。間違いなくこれが本作の白眉といえるすばらしさ。

オーケストラ・サウンドによるイントロに続きそれがすっと消えレイヴェイ一人でのギター弾き語りでぽつぽつと歌いはじめる瞬間のクワイエットな美しさは、なんとも筆舌に尽くしがいものがあり。曲メロもきれいだし、みごとな一曲ですね。

昨年まではベッドルーム・ポップっぽいDAWアプリ駆使での作り込みサウンドが中心でしたが、人気歌手となったことでふんだんに演奏バンドやオーケストラを使えるようになって、もともと本人のあたまのなかで鳴っている音楽を自在にアナログで表現できるようになったのも、本作ではとても大きいことです。

(written 2023.9.12)

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