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シナトラにはなかったあたたかみ 〜 ウィリー・ネルスン

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Willie Nelson / That’s Life

二月のことでしたが今年もウィリー・ネルスンの新作が出ました。『ザッツ・ライフ』(2021)。ウィリーってなんだかもうずいぶん老人だというイメージがあって、実際90歳近いのに、新作リリースのペースは落ちる気配すら見せず。すばらしいことです。若手や充実期の壮年だってこんなにどんどん出せないでしょう。

今回は2018年の『マイ・ウェイ』以来のフランク・シナトラ・トリビュート二作目。アルバム・ジャケットをごらんになればわかるように、それもシナトラ1955年のキャピトル盤LP『イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ』のデザインを意識したものです。

シナトラとウィリーの共通点といえば、歌に託された物語をリスナーへと深く豊かに伝える語り部として、ストーリーテラーとして、卓越しているということに尽きます。この点においてウィリーもシナトラを敬愛し、友として共感し歩んできたのだと思います。

今回の『ザッツ・ライフ』もシナトラの歌ったレパートリーばかりを11曲選び出し、それをウィリーなりに歌いなおしたもの。プロデュースはおなじみバディ・キャノンとマット・ローリングズ。シナトラが本拠にしていたロス・アンジェルスのキャピトル・スタジオでレコーディングが行われた模様です。

どの曲も一聴でウィリーだとわかる唯一無二の個性を発揮しているのはさすが。曲の魅力はそのままに、なにひとつ変えず壊さず、その上でウィリーにしか出せない香りを最大限に付与していて、いやあ、すごいパフォーマーです。ワン・フレーズ歌っただけで納得させられる歌手というのはそういるもんじゃありません。

ジャケット・デザインがシナトラのアルバム『イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ』を意識したものであるように、9曲目にその「イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ・オヴ・ザ・モーニング」もあります。シナトラのブルー・バラード最高傑作だったものですが、とても大きな違いを聴きとることができるはず。

メタリックな冷たさを感じたシナトラ・ヴァージョンに対し、ここでのウィリーの歌にはそれでも救いのあるほんのりとしたあたたかみがあるのが特徴なんですね。

そう、シナトラの歌唱全般には救いがなかったわけで、ある種どこまでも突き放された冷酷さ、残酷さみたいなものをとても強く感じたものですが(それが美点でもあった)、ウィリーが同じ曲を歌うと人間的なぬくもりを持ちはじめるというのがおもしろいところ。ここは決定的な差ですね。長年カントリー畑でやってきたキャリアがもたらすものでしょうか。

3曲目「カテージ・フォー・セール」も今回のこのアルバムでひときわ沁みてくる歌になっていますが、ウィリーならではの人間的な説得力を感じさせるできあがりで、寂寥感に貫かれたこの曲を淡々とつづってみせているところに、シナトラとは異なる、声の体温をぼくは感じます。

10曲目「ラーニング・ザ・ブルーズ」、11「ロンサム・ロード」といったブルージーなナンバーでは独自のアーシーな味を発揮、シナトラよりもずっといいぞと思えるできばえで、ジャジーなスティール・ギターやハーモニカも効いていますね。

ラテン・アレンジが聴けるものが二曲あるのもいいですね。4曲目「アイヴ・ガット・ユー・アンダー・マイ・スキン」、8「ラック・ビー・ア・レイディ」。いずれもシナトラ・ヴァージョンにはなかった味付けで、今回の独自アイデアですね。以前から言っていますが、ウィリーの音楽のなかには(カントリーの発祥地たる)アメリカ南部由来のカリブ/ラテン・ビートがしっかり刻印されているんです。

(written 2021.7.26)


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