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ちょっぴりカリビアンな2020年のダン・ペン

(4 min read)

Dan Penn / Living on Mercy

サザン・ソウル・レジェンド、ダン・ペン久々のリーダー作品『リヴィング・オン・マーシー』(2020)がなかなか評判いいですよね。ジャケット・デザインは個人的にあまり好きになれないですけど、中身は文句なしにすばらしい。このアルバムも、録音の一部がやはりナッシュヴィルで行われたそうですよ。やっぱりナッシュヴィル 、なにかあるよなあ。

ダン・ペンの今回の『リヴィング・オン・マーシー』は、基本、アメリカ南部音楽をベースとするカントリー・ソウル・アルバムと呼んでいいと思います。この、アメリカ南部音楽を基調としているという部分が個人的にはたいへん印象深いんですね。1960年代にはアラバーマ州マスル・ショールズのフェイム・スタジオを中心に活動していたダン・ペンですが、長い時間が経過して、音楽的にはもっと南下したような印象があります。

たとえば今回の新作3曲目の「アイ・ドゥ」。アルバム中これだけが古い曲で、1965年にすでに一度フェイムに録音していますから、今回のは超久々の再演。その65年の初演はSpotifyでも聴けるようになった『ザ・フェイム・レコーディングズ』に収録されていますので、ぜひちょっと聴き比べてみてください。その65年ヴァージョンはわりとストレートなソウル・ナンバーで、とくに変哲もない感じなんですね。

これが今回の新ヴァージョン「アイ・ドゥ」になると、なんとアバネーラ的な解釈が施されているじゃないですか。グッとテンポを落とし重心を低くして落ち着き感を出し、リズムにアバネーラのあのタン、タ、タ〜ンのシンコペイションを効かせたアレンジになっていますよね。個人的にはもうこれで最高!となってしまうほど、毎度毎度言いますがぼくはアバネーラの大ファンですからね。サビでピアノが三連を叩くのは1965年ヴァージョンと同じです。

アバネーラは19世紀のキューバ音楽ですが、カリブ海経由でニュー・オーリンズにも輸入され、そこを拠点にアメリカ合衆国各地の音楽に拡散していったことは間違いありません。ジャズがそもそも誕生初期からそうでしたし、その後のアメリカン・ポピュラー・ミュージックの基軸になっているものですね。ダン・ペンみたいな白人ソウル・ソングライターのなかにもしっかりあるということでしょう。

このことを念頭におくと、今回の新作『リヴィング・オン・マーシー』、わりとカリブ海を臨むような南部的テイスト、ニュー・オーリンズ風味がわりと聴けるなという印象があって、サザン・ソウルなんだからそりゃそうだろうと言うのは簡単ですが、1960年代のフェイム時代にはこんなふうでもなかったですからね。年月を経て、みずからも身を置いてきたアメリカン・ミュージックのルーツ、由来みたいな、つまりいまふうに言ってみればちょっとアメリカーナ的視点を、ダン・ペンも獲得したのだと言えるかもしれません。

ミシシッピとかルイジアナなど南部的テイストが濃いといえば、そもそもダン・ペンはそんな音楽家ではありました。今回の新作でもスワンプ・ロック風味だってあるし、それがサザン・ソウルと混じって、+(ニュー・オーリンズ経由での)カリビアン・ニュアンスもくわえた上での、2020年的展開を聴かせているっていう、そんな音楽ですかね、この新作。

(written 2020.10.6)

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