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星座の物語 〜『ア・トリビュート・トゥ・レナード・コーエン』

(3 min read)

Here It Is: A Tribute to Leonard Cohen

レナード・コーエンって名前くらいしか聞いたことなかったのに、こないだリリースされたばかりのニュー・アルバム『Here It Is: A Tribute to Leonard Cohen』(2022)にハマってしまっているのはなぜでしょう。聴いてみようと思ったのはやっぱりブルー・ノートからのリリースだからです。

でもジャズ・アルバムってわけではないし、ロックでもカントリーでもポップスでもないっていう。そのへんの多ジャンル接合的なありようは、いかにも21世紀的といえるのかもしれません。ブルー・ノートだってそんなレーベルになりました。本作はラリー・クラインのプロデュースですからいっそう。

ことばが自然に集まっておのずとストーリーをつむぎだすようなスポンティニアスさをとっても大切にしてアルバム制作にとりくんでいったということがよくわかるのもうれしく納得で、そのためにラリーが選んだコア・バンドのメンバーはビル・フリゼール(ギター)、イマニュエル・ウィルキンス(サックス)、ケヴィン・ヘイズ(ピアノ)、スコット・コリー(ベース)、ネイト・スミス (ドラムス)。

+グレッグ・リース(ペダル・スティール)、ラリー・ゴールディングズ(オルガン)で、これがアルバム全体で動かない固定メンバー。ジャズ系の腕利きミュージシャンが中心ですね。全曲をほぼこのメンツで演奏しているがため、一曲づつさまざまなジャンルの歌手をむかえレナードの曲を歌わせていても、色彩感に統一した意図を感じる結果になっています。インストも二つあり。

ことさらすばらしいと思えるのが、ピーター・ゲイブリエルによる2曲目「ヒア・イット・イズ」、グレゴリー・ポーターの3「スザンヌ」、ジェイムズ・テイラーの7「カミング・バック・トゥ・ユー」、イギー・ポップの8「ユー・ウォント・イット・ダーカー」あたり。

それらはいずれもダーカーでグルーミー。サウンドもそうならヴォーカルだって下向いてぼそっと内省的につぶやき落とすかのよう。これが現代のカラーでしょうか。そしてバンドの演奏で曲の輪郭がふちどりされくっきり浮かびあがるようで、もとはといえばレナードの曲ってサウンドやリズム面は簡潔なものでしたから、これら今回のレンディションは格別です。

みごとな演奏で曲の姿がいっそう鮮明になり、暗さとないまぜの鈍く輝くあざやかさを増しているというのは、本作に収録されたどの曲でもいえること。レナードの曲の本来的なみごとさと同時にコロナ・パンデミックでいろどられた2020年代的な沈鬱なレレヴァンスをあきらかにしています。

ネットでひろがる音楽という無限の天空に光る星々を一つ一つ好みで拾っていくようにながめているのもいいけれど、想像された星座の総体的なストーリーをひとまとまりで味わえるような、そんなアルバムです。

(written 2022.10.19)

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