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ワン・ホーン・バラードが逸品なカーティス・フラー『ジ・オープナー』

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Curtis Fuller / The Opener

ハード・バップのジャズ・トロンボーニスト、カーティス・フラー。諸作あるうち、特に個人的な印象に残っているのが1957年の『ジ・オープナー』。

まずジャケット・デザインに惹かれてレコードを買いましたが、なんといっても1曲目のバラード「ア・ラヴリー・ウェイ・トゥ・スペンド・アン・イヴニング」をワン・ホーン編成で淡々と吹くカーティスに感銘を受けたんですよね。

地味なんですけど、このチャーミングなバラードのその雰囲気をそのまま活かすようにそっとやさしく、じっくりとつづるカーティスのトロンボーン演奏は、実に味わい深いものです。大学生のころはじめて聴いたとき、なんてすばらしいトロンボーンだろうと感動しましたね。

1957年の演奏ですから、カーティスはまだデビューして間もないというころ。でもここでのバラード吹奏は文句のつけようがない完璧さじゃないですか。ボビー・ティモンズ以下リズム・セクションも堅実。この曲ではテナー・サックスでアルバムに参加しているハンク・モブリーはお休みです。

このカーティスの演奏を聴いていると、オーディオの前にすわっているこっちがまさにほんとうにステキな夜を過ごしているような気分になれて、つまりこれは原曲の持つその雰囲気を100%活かせているみごとな演奏だから、ということですよね。

こんなのがA面トップだったもんだから、もうそれだけでアルバム全体のイメージが決定づけられてしまったような感じですが、実際にはなんの変哲もないハード・バップ・セッションで、ことさら秀作というわけでもありません。1曲目が突出しているだけで。

そうそう、CDや配信では4曲目の「ヒアズ・トゥ・マイ・レイディ」、これもチャーミングなバラードをカーティスが淡々と演奏する内容ですけど、これが当時B面トップだったんです。つまりこの『ジ・オープナー』というアルバム、レコードのAB面それぞれトップにワン・ホーン・バラードを持ってくることで全体の統一感を出そうとしたもの。

そのB面1曲目だった「ヒアズ・トゥ・マイ・レイディ」も逸品で、ムードは完璧にA-1の「ステキな夜の過ごしかた」と同じ。ほかの収録曲にこれといってきわだつ美点もないので、アルバム全体ではやや点数が下がってしまいますが、なかなか忘れられない印象を残す作品ではあります。それほどA-1、B-1は魅力的。37分間のアルバム一個につき二曲あれば、充分じゃないですかね。

(written 2021.3.29)

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