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畢竟の大傑作 〜 ンドゥドゥーゾ・マカティーニ

(3 min read)

Nduduzo Makhathini / In The Spirit of Ntu

なんど聴いても、どう聴き込んでも、畢竟の大傑作なんだとしか思えないンドゥドゥーゾ・マカティーニ(南アフリカ)の最新作『In The Spirit of Ntu』(2022)。今年のベスト・ワン・アルバムはもうこれで決まりですよ。

ンドゥドゥーゾは新世代ジャズとかのピアニストではなく、従来的なメインストリーム1960年代ジャズの延長線上にある音楽をやっているんですが、この新作は雄大なスケール感、ポリリズミックなビートの強さと鮮明さ、スピリチュアリティ、ほとばしるパッショネイトな表現など、どこをとってもジャズ・ミュージックにおける最良のかたちを獲得したものといえます。

1曲目からそれはあきらか。オープニング・トラックにして3、5曲目とならぶ本作の白眉ですが、ピアノ、ヴァイブラフォン、ドラムス、パーカッションで重層的に練り込まれ表現されている強いポリリズムと、前向きの推進力、情熱は、ポジティヴな生命力に満ちあふれています。

これが幕開けににあるだけで、もうそれを聴いただけで傑作アルバムだろうと確信できるほど。ドラムスから入る荘厳なプライドに満ちたような3曲目のグルーヴもすばらしい。しゃべっているというかラップみたいなのが散見されるのはンドゥドゥーゾ本人ですかね。

5曲目ではゲスト参加のアメリカ人ベテラン・サックス奏者、ジャリール・ショウが徐々に燃え上がるような熱情的なソロを聴かせるのが最高。やっぱりちょっと60年代コルトレインっぽいような。吹きまくりに身をゆだねていれば快感で、その前に入るマッコイ・タイナーみたいなンドゥドゥーゾのプレイもいいです。

ジャリールはおそらくここだけで、ほかの曲でも同じくらいパッショネイトなサックスが聴こえるのは、テナーだしリンダ・シカカネなんでしょう。リンダをふくめ本作でンドゥドゥーゾが起用しているのは地元南アフリカの若いミュージシャンたち。

7曲目のサックス・ソロもすばらしく、バンドの演奏も活力があふれ、フェイド・アウトしてしまうのだけをちょっと残念に感じます。またアルバム中随所でンドゥドゥーゾのピアノはセロニアス・モンクを想起させるスタイルをとったりもしていますね。

ラストの二曲は静かに自己の内面に向きあい祈りをささげるような感じの曲想。9曲目の末尾と10曲目の冒頭は、トラックが切れているものの一続きの演奏だったかも?と思わせ。最後はソロ・ピアノでおだやかにこの壮大な1時間8分のサウンドスケープをしめくくります。

(written 2022.6.15)

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