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短命だったマイルズのエヴァンズ・バンドをまとめて 〜『カインド・オヴ・ブルー』レガシー・エディション

(6 min read)

Miles Davis / Kind of Blue (Legacy Edition)

それで昨日の続き。マイルズ・デイヴィス『カインド・オヴ・ブルー』は一曲を除きマイルズ、ジョン・コルトレイン、キャノンボール・アダリー、ビル・エヴァンズ、ポール・チェインバーズ、ジミー・コブの布陣。

このメンツでのスタジオ録音って、ほかには『1958 マイルズ』に収録されている四曲しかないんですよね、実は。つまりトータルでたったの八曲。マイルズ史上最も記憶されているバンドかもしれないのに、それは印象が強いというだけの話なんですね。

たしかに存在したレギュラー・バンドだったにもかかわらず八曲とはかなり少ないでしょう。1950年代のファースト・クインテット、60年代セカンド・クインテットともにアルバムで最低でも四つはあるっていうのにねえ。

しかも『カインド・オヴ・ブルー』を録った1959年3月2日、4月22日というとビル・エヴァンズはすでにマイルズ・バンドを去っていた時期。セッションのため例外的に呼び戻されただけだったんですから短命のほどが知れようってもの。

ディスコグラフィをくってみれば、エヴァンズもジミー・コブも『1958 マイルズ』に(いまでは)なった1958年5月26日のセッションが初のスタジオ正式録音。その十数日前に同バンドでライヴ出演しているのが(記録に残るかぎりでは)初顔合わせだったんです。

コブは61年まで在籍したものの、エヴァンズはっていうと58年9月のライヴ出演がレギュラーでのマイルズ・バンドではラスト。いっときの臨時的レッド・ガーランド復帰を経て、翌59年1月のラジオ出演からウィントン・ケリーになっています。

つまりエヴァンズ定期参加時代のマイルズ・バンドはわずか三ヶ月ちょいしか存在しなかったってことになるんです。その間スタジオ正式録音は『1958 マイルズ』の四曲だけ。もちろん『カインド・オヴ・ブルー』への参加のほうが鮮烈な印象ですけども。

そんな短命バンドでありながら影響力は絶大で、どんどんスタイルが移り変わったマイルズ個人のキャリアにとっても、このエヴァンズ・バンド時代は忘れられないものだった様子。特にハーモナイゼイションの面では(エレキ・ギター時代でも)生涯エヴァンズ的なものを求め続けたのでした。

そのへんのこと(マイルズとエヴァンズ・ハーモニーの関係)はずっと以前に一度詳述したので、ぜひそちらをごらんください。ともあれコロンビアによる正規スタジオ録音がたったの八曲しかないこのバンド、それらをまとめてぜんぶ聴けるというアルバムがいまではあります。

2009年リリースだった『カインド・オヴ・ブルー』レガシー・エディション二枚組のことで、これの一枚目に『カインド・オヴ・ブルー』全曲、二枚目に『1958 マイルズ』から58年録音の四曲が収録されているんです。その他一枚目には『カインド・オヴ・ブルー』の未発表スタジオ・シークエンス(ブートレグでは出ていたものですが、公式発売はこれだけ)なども入っています。

これ、もちろん漏らさずサブスクで聴けるんですね。ですから、CDで買ってもいいし、みなさんのお好きなようになさっていただきたいと思います。レガシー・エディションのさらなるメリットだと思うのは、末尾に伝説的な1960年春の欧州ツアーから一曲「ソー・ワット」のライヴ・テイクが収録されていること。

つまり『ファイナル・ツアー』ボックス・セット(2018)でも聴けた、かのコルトレイン苛烈なやりすぎ吹きまくりソロが聴けるんです。その「ソー・ワット」、ちょっと計ってみたらマイルズのソロ長が3分2秒なのに、トレインは実に8分31秒も吹いていて。

マイルズのもとでのこうした饒舌トレインがぼくは大好物なんですよね。むろん『ファイナル・ツアー』でこれでもかとたっぷり聴けるんですが、『カインド・オヴ・ブルー』レガシー・エディション収録のオランダ、デン・ハーグ公演「ソー・ワット」は『ファイナル・ツアー』に入っていません。

さすがにこれ一曲だけピック・アップしただけあるっていう内容で、『ファイナル・ツアー』に各地のが収録されている「ソー・ワット」ほか全曲と比較しても、『カインド・オヴ・ブルー』レガシー・エディションの「ソー・ワット」こそ最良ですからね。

いうまでもなく1960年欧州ツアーはエヴァンズ・バンドではありません。きょうの本稿の趣旨からは逸れてしまうプッシュなんですが、いってみればそれだけ『カインド・オヴ・ブルー』レガシー・エディションは聴きどころ豊富な盛りだくさんの内容ってわけです。

(written 2023.1.14)

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