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タミクレストの低温調理 〜『Tamotaït』

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Tamikrest / Tamotaït

昨2019年の来日公演にきっかけがあって出かけていってライヴで聴いたタミクレスト。その2020年新作『Tamotaït』がずっと気になっていたので、ここらへんでちょっと簡単にメモしておきたいと思います。このバンドにぐっと親近感が増したのはやはりライヴを体験したからです。そのとき、砂漠のブルーズだとか抵抗の音楽だとかいうようなこととはいっさい無関係に、シンプルに踊れるグルーヴを強力に推進できるダンス・バンドなんだなということを痛感して、ニンマリしたんですね。

だからどうしてもそういった方向から新作も聴いてしまいましたが、そうするとちょっと肩透かしをくらう感じです。もっとゆったりしたビート感でじっくりじわじわ低温調理するような、そんな音楽で占められているんですよね。それでもアルバム1曲目「Awnafin」はしょっぱなからけっこう熱くもりあがり、ビートもそこそこ効いています。出だしがこれですからアルバムも期待したんですけど、実はもっとじんわりした曲のほうが多いんですね。

2、3曲目とゆるいテンポのゆったりナンバーが続き、砂漠のブルーズは抵抗と反逆の社会派音楽だなんてわからないぼくは(歌詞聞いてもわからないし、背景を文章で読むだけじゃねえ)、たんに聴いて楽しい、踊れるグルーヴ・ミュージックとして聴いているわけですから、タミクレストの今回のこういった2、3曲目みたいなのはイマイチなんですね。複数のエレキ・ギターのシングル・トーン弾きで重なるサウンド・テクスチャーのカラフルさは好きなんですけれども。

そう思って聴いていたら、4曲目「Amidinin Tad Adouniya」がまあまあのグルーヴァーです。これは好きですね。ハンド・クラップも効果的に入り、ビートも効いているし。しかもエレキ・ギターのスライド・プレイが聴こえるんですけど、これ、だれが弾いているんでしょう?しかもそのスライドはなんだかちょっと UK ブルーズ・ロックっぽい響きで、そういうのが大好きなぼくにはちょうどいい味つけです。トゥアレグ・ミュージック特有の女声コーラスの例の感じも入って、いいですね。あっという間に終わってしまいましたが。

こういった1、4曲目みたいな感じでどんどん攻めてくれればいいのに、と思って聴き進むと、ほかになく、唯一8曲目「Anha Achal Wad Namda」がかなりの激熱グルーヴ・チューンで、これは最高です。それで気づいたんですけど、ここまでドラムスの音がさほどには目立っていないんですね。これは意外。昨年の来日公演ではドラマーの激しいビートが効いていましたから。この8曲目では派手に叩いていて、これはいいですねえ。テンポ設定もちょうどノリやすい感じだし、ぐるぐる回って、これならノレます。

もうホントこういう激しいビートの効いたダンス・チューンをどんどんやってくれたらよかったのになあ、実際8曲目くらいしかないし、と実は思わざるをえないタミクレストの2020年新作でした。7曲目での坂田淳とアルバム・ラスト曲での OKI の参加は特にどうってことないかなと感じますが、6曲目でのヒンディ・ザハラ(モロッコ)との共演はちょっとした聴きものですね。

(written 2020.6.7)

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