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羽をもがれた女性たちのための浄化の歌 〜 青田典子

(3 min read)

青田典子 / Noriko’s Selection -Innocent Love-

リリースされたときTwitterのタイムラインで一瞬見かけた気がする青田典子の新作アルバム『Noriko’s Selection -Innocent Love-』(2023)。その後話題になっている気配もありませんが、心に訴えかけてくる作品だとぼくは感じています。

典子の歌手活動が熱心な音楽ファンやジャーナリズムにとりあげられることなんてないわけですが、ぼくはぼくでいいと感じたものを自分の気持ちに正直に、だれに遠慮も気がねもせず、書いていくだけですから。

それで今作『Noriko’s Selection』はカヴァー・ソング集、それも流行の80sシティ・ポップを意識したようなセレクションなので、オリジナル歌手たちを一覧にして以下にまとめておきます。

1 真夜中のドア(松原みき)
2 むくのはね(Kinki Kids)
3 眠りの果て(涼風真世)
4 駅(竹内まりや)
5 化粧(中島みゆき)
6 花束(中島美嘉)
7 たいせつなひと(安全地帯)
8 別れの予感(テレサ・テン)
9 微笑みに乾杯(安全地帯)
10 いのちの歌(竹内まりや)

ロスト・ラヴの歌ばかり集められています。典子自身の語るところによれば「(これらの歌に)向き合いながら友人たちが泣いている光景を何度目にしてきたことか」「聴きながら自分をヒロインに立て、慰め、浄化させることを私の同世代は誰もがしてきたんじゃないか」といった曲の数々。

だから(基本的に)女性目線の歌ばかり。以前からくりかえしますように日本では性別を超えて自身とは異なるジェンダー立場に身を置ける歌は多く、それでも今作は<羽をもがれた女性たち>という視点がことさら強く出ているようには思いますが、ぼくみたいなオヤジが聴いて感情移入できないわけでもありません。

それが音楽のパワーとか浸透力っていうもので、聴き手のほうも想像力と共感力が問われます。さらに選ばれている曲の痛み特性を響かせるため、ヴォーカルには必要最小限の装飾しかほどこされていません。数曲ではまったくのノン・リヴァーヴで、すっぴん声のナマナマしさが曲の痛切を増幅しています。

聴くひとによっては共振しすぎ、つらくて聴きとおせないと感じるかもしれないほどの内容で、しかし歌によって、聴くことにより、泣いて、ある種のカタルシスを得ることができる悲しみが存分に宿っている音楽であるがゆえ、心的浄化をもたらしてくれる好作に違いありません。

終盤の「別れの予感」「いのちの歌」あたりまで来るとさわやかさがただよっていて、これらはもとからそうした(悲痛感をストレートに強調しない)曲想のものではありますが、仮想のヒロインに立てたリスナーの自分がふっきれて清らかになっていくのを感じることができます。

(written 2023.4.6)

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