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ポール・サイモン:インフルエンサーズ

(7 min read)

ちょっと前に『ポール・サイモン:インフルエンサーズ』というSpotifyプレイリストを見つけました。それが上掲リンク。レガシー公式の制作となっていますが、ポール・サイモン自身のキュレイションによるものだそうです。つまりはオーソライズド・プレイリストということで、だれのどんな音楽がポール・サイモンの音楽に影響を与えたのか、自身でつまびらかにするといったものでしょう。二時間半とやや長いですが、楽しんで聴きました。

と言いましてもぼくはポール・サイモンの音楽をなにも知らないので(サイモン&ガーファンクル以外には『グレイスランド』『ザ・リズム・オヴ・ザ・セインツ』くらいしか聴いていない)、だからポールの音楽形成にどんなふうに作用しているのかなんてことはまったくわかりません。ただただ、このプレイリストじたいのおもしろさをしゃべることしかできないんで、そこはご了承ください。

いきなりサン時代のエルヴィス・プレスリー二曲ではじまるのはいいですね。ロック・ミュージックの出発点あたりということで(ロックの兆しはもっと前からあったわけですけれども)、ここが新しい時代の幕開けだったという、そんな青春をポール・サイモンも過ごしたわけでしょう。エルヴィスはポールの、いや、あらゆるロック系ポピュラー歌手の、アイドルだったかもしれませんね。

続いてなんとリトル・ウォルターの代表曲が来ているのはなかなか新鮮です。エルヴィスと深い関係もありましょうが、そういうこと以上にこういったシカゴ・ブルーズのミュージシャンがプレイリストに入って、白人音楽と黒人音楽が混じり合いながらプレイリストが進むのには思わずなごみます。アメリカン・ミュージック提示のありようとしては、当然ではあるんですけど、理想形ですよね。

リトル・ウォルターみたいなシカゴ・ブルーズがポール・サイモンの音楽形成にどんな役割を果たしていたかなんてことはやはりぼくにはサッパリわかりませんので、ご勘弁を。そういえば、このポール自身の選曲による公式プレイリスト、けっこうたくさんの黒人ブルーズが登場するんです。サイモン&ガーファンクルなんかを聴いていても痕跡がわかりにくいですよね。しかしもちろんポールだって聴いていたでしょう。

このプレイリストにある黒人ブルーズは、ほかにもハウリン・ウルフ、ボ・ディドリーやチャック・ベリーやリトル・リチャード(らはロックンローラー?)、ジミー・リード、マディ・ウォータズ。なかなかおもしろいですね。それらはまとめて出てくるのではなく、さまざまな種類やタイプの曲に混じって登場するので、オッ!と思わせるものがあり、なかなかみごとな効果を生んでいるなと思います。

そう、ブラック・ミュージックがかなりたくさん収録されているというのがこのプレイリストの大きな特色で、ポール・サイモン自身がそれらを選曲したことを思えば、感慨深いものがあります。上記ブルーズばかりでなく、ファッツ・ドミノといったリズム&ブルーズ、スワン・シルヴァートーンズ、サム・クック時代のザ・ソウル・スターラーズのようなゴスペル・カルテットであるとか、アリーサ・フランクリンやマーサ・リーヴズ&ザ・ヴァンデラスやミラクルズのソウル・ナンバーだったり、あるいはドゥー・バップ曲だってあるし、目配せが利いているなと感じます。

フォークやフォーク・ロック、カントリー、初期ロックンロールであるとかいった白人音楽もまんべんなく収録されているし、このポール自身の選曲によるプレイリスト『ポール・サイモン:インフルエンサーズ』は、彼の青春時代(1950年代?)をいろどったアメリカン・ミュージック総ざらえといったおもむきがありますね。

ビートルズのようなイギリス人もいます。ビートルズのばあいレコード・デビューが1962年でしたから、1941年生まれのポール・サイモンにとっては形成期の音楽ではなく、活躍時期がほぼ同じだったという気がするんですが、それでもビートルズがポール・サイモンの音楽形成に果たした役割があったということなんでしょう。

そういった同時代音楽や、あるいは成功してのちに発売された音楽も多少このプレイリストには収録されています。ジミー・クリフ(二曲)なんかもそうですし、アリ・ファルカ・トゥーレもそうですね。二曲収録の初期ボブ・ディランなどもポールの同時代人でしょう。あるいはボブ・マーリーであるとか、マーヴィン・ゲイの「ワッツ・ゴーイング・オン」もそうです。あっ、いま気がつきましたが、ヴェトナム戦争をテーマにした音楽がわりと収録されていますね。このへんは同時代的にポール・サイモンと問題意識を共有していたということですね。それはポールの音楽からもわかります。

ぼくの大好きな『グレイスランド』『ザ・リズム・オヴ・ザ・セインツ』につながったであろうような音楽もすこし入っているのにもニンマリ。ポール・サイモンとの関係がよくわからない(けど、個人的には聴くのが楽しい)モダン・ジャズも収録されているのだってやや目立ちます。マイルズ・デイヴィスの『カインド・オヴ・ブルー』版「ソー・ワット」と、それからジョン・コルトレインの『至上の愛』なんかアルバムまるごとぜんぶ入っているという。それでプレイリストは締めくくられます。

(written 2020.8.8)


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