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やはり古典復興?〜 マリア・マルダー&チューバ・スキニー

(4 min read)

Maria Muldaur, Tuba Skinny / Let’s Get Happy Together

2018年のアルバムがスケベさ全開で最高だったマリア・マルダーですが、2021年の最新作『レッツ・ゲット・ハッピー・トゥゲザー』では、エッチさはないものの、音楽的には完璧同一路線。ヴィンテージなオールド・ニュー・オーリンズ・ジャズのテイストなんですよね。

今作でマリアはチューバ・スキニーと共演。チューバ・スキニーはニュー・オーリンズに拠点を置き、同地の1920年代ふうなヴィンテージ・ジャズを演奏している2009年結成の若手バンド。マリア・マルダーとの今共演では、コルネット、クラリネット、トロンボーン、チューバ、バンジョー、ギター、ウォッシュボードという編成でやっているみたいですね。

マリア・マルダー自身1960年代のジム・クウェスキン・ジャグ・バンドなどで熱心に追求していたグッド・オールド・ミュージックを、21世紀にイキイキとやっているこのチューバ・スキニーを知ったのは、ウッドストックの行きつけの洋服屋さんのBGMでかかっていたというほんの軽い偶然だったみたいですけど、興奮してみずから共演を申し出たそうですよ。

それで誕生したのがアルバム『レッツ・ゲット・ハッピー・トゥゲザー』というわけ。このアルバム・タイトル曲はリル・ハーディン・アームストロングの曲ですよね。そのほか、このアルバムに収録されているのはどれも1920〜40年代の過去の古いジャズ・ナンバーばかり。デューク・エリントンの「デルタ・バウンド」やビリー・ホリデイが歌った「ヒー・エイント・ガット・リズム」などは知名度があるんじゃないでしょうか。

それがまるで2021年に生まれたばかりの曲のようにナマナマしく響くんだから、マリアの情熱もさることながら、今回はチューバ・スキニーの技量に驚くばかりです。収録曲はどれもオリジナルか有名なヴァージョンで演奏されていたアレンジメントをほぼそのまま採用し、それでもたんなる過去の再現に終わらせていないといったあたりにこのバンドの本領がありそうです。

音楽的には2020年代的な新しさなんかどこにもないわけですけど、こういったグッド・オールド・ミュージック、古典ジャズは近年ちょっぴり復興しつつあるというか、ブームとまでは言えないまでも、21世紀に入ったあたりから、とりあげて演奏するバンドが増えつつあるんじゃないかとぼくにはみえています。

スクィーレル・ナット・ジッパーズ、ジャネット・クライン(は最近どうしているの?)、ダヴィーナ&ザ・ヴァガボンズなど、かなりみごとな成果を聴かせる音楽家もどんどん出てきているし、こりゃちょっと注目すべき動きかもしれないですね。それよりなにより40年前から(SP時代の)ヴィンテージ・ジャズを愛好してきたぼくにはうれしいことこの上なく。

ジャズ、っていうか音楽って、いや文化全般そんなもんかな、おもしろくて、新しい傾向というか時代の新潮流がブームみたいになると、必ず同時並行的に過去のものがリヴァイヴァルするという動きを見せてきました。1940年代のビ・バップ勃興・全盛期にもニュー・オーリンズ・リヴァイヴァルがあったじゃないですか。

いま2010年代以後かな、やはりジャズは新しい時代の波に洗われるようになっていますけど、それとちょうどときを同じくして、こういったグッド・オールド・ミュージックがふたたび復興してきているようにみえるのは、歴史の必然かもしれませんよね。

チューバ・スキニーもまたそういった動きに乗ったバンドのひとつで、ちょうどそれに1960年代以来のマリア・マルダーの志向がぴったり合致したということだと思います。なにより、聴けば文句なしに楽しいし、踊れるし。ほんとうに楽しそうな共演コンサートの模様がYouTubeに上がっていたのでご紹介しておきます↓

(written 2021.7.6)

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