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ファンク演歌だったり民謡演歌だったり 〜 杜このみの歌が実にいいよ

(6 min read)

北海道生まれ、民謡界出身の演歌歌手、杜このみ。大相撲の高安と結婚し妊娠中ということで(注:2021年2月17日に無事出産)、歌手活動をいまちょっと休んでいますが、このみは民謡界出身にしてはありえないほどストレート&ナイーヴでポップな歌いかたをする歌手なんですよね。

シングル・コレクションの1と2がSpotifyにありますので(2は昨年暮れに発売になったばかり)、それをまとめたプレイリストを上のリンクで貼っておきました。ぜひちょっと聴いてみてください。ぼくはこのみのことが好みなんです。

なかでもこりゃすごいとビックリ仰天するのが第一集収録の「初恋えんか節」。2014年の「のぞみ酒」のカップリングだったものですけど、どう聴いても「初恋えんか節」のほうがカッコイイです。この強靭でファンキーなビート、まさにファンク演歌と呼ぶべき壮絶なものじゃないですかね。

リズム・セクションが表現する曲のビート感がすごいなと思うんですけど、特にエレベとか超絶グルーヴィですよねえ。ブレイクの入りかたも絶妙。こんな演歌、聴いたことないですよ。曲は聖川湧、アレンジが丸山雅仁。このみのヴォーカルもハキハキと歯切れよくノリよく伸びやかですよね。いやあ、この「初恋えんか節」、こんな曲があったなんてねえ、ビックリですよねえ。二度言いますけど、これはファンク演歌です。

もともとこのみはデビュー曲が「三味線わたり鳥」で、ここからしてすでにロック/ファンク調の演歌路線だったんですよね。明るくポップでリズミカルな曲調と歌いかたで、このみにしかできない世界をつくりあげているなと思います。B面だった「江差初しぐれ」のチャーミングなバラード系もみごとです。

それにしてはその後、かな〜り旧来的な演歌楽曲も与えられていますけどね。シングル・コレクションの第一集だと12曲目の「尾道街道」、15「萩の雨」、第二集だと4曲目「おさらば故郷さん」、8「めぐり雨」など、製作陣はどうしてここまで超古くさ〜い演歌を若手新世代歌手のこのみに歌わせるのか?といぶかしむほどですよ。それらはちょっと救いようがないなぁと思っちゃいます。

シングル・コレクション、第一集には必殺キラー・チューンの「初恋えんか節」があったわけですが、第二集のほうには第一集にない二つの大きな特色があります。「秋田長持歌」「津軽じょんから節」「江差追分」と三曲の民謡を収録していること、ポップ・ソングのカヴァーも「真赤な太陽」「時の流れに身をまかせ」「夢一夜」と三曲あること。

民謡は演歌デビュー前のこのみの本来領域で、子ども時分から成人まで全国大会でなんかいも優勝を果たしています。12歳で江差追分全国大会少年の部で当時史上最年少優勝。その五年後には優秀歌手選抜一般決勝大会北海道民謡の部で優勝、江差追分の部でも優勝しています。

22歳では秋田長持唄全国大会で優勝、津軽五大民謡全国大会津軽よされ節の部でも優勝などを成し遂げ、アメリカやブラジル、ヨーロッパにも出かけていって民謡のコンサートを開催しているくらいなんですね。三味線の腕前も一級品で、シングル・コレクション第二集収録の「津軽じょんから節」での演奏はこのみ自身でしょう。

かなりおもしろいなと思えるのは、第二集の13曲目「江差初しぐれ(江差追分入り)」です。「江差初しぐれ」は2013年のデビュー・シングルのB面だった名バラードですけど、第二集収録のこっちは2018年の新録音。1コーラス歌ったら、伴奏が尺八一本になり、すっと民謡「江差追分」へと移行。一節歌い終えるとふたたび伴奏が入ってきて「江差初しぐれ」に戻るという趣向です。

これをこのみのヴォーカル・スタイルに注目して聴いてほしいんです。「江差初しぐれ」部分ではポップでスムース&ナチュラルな自然体歌唱法、いかにも新世代演歌歌手だという歌いかたなんですけど、「江差追分」部分では民謡歌手らしいしっかりしたコブシをまわしヴィブラートを強く効かせていますよね。このみはちゃんと歌い分けているんです。しかもこの2パートの連続も難なくこなすっていう、これはなかなかの力量ですよ。

「真赤な太陽」(美空ひばり)「夢一夜」(南こうせつ)「時の流れに身をまかせ」(テレサ・テン)も抜群にいいし、こういうのを聴くとやはり2010年代以後的な新世代演歌歌手だなと実感しますよね。上で述べた古臭ふんぷんたる旧来的な楽曲とのギャップがかなり大きく思えてしまいますが、さあ、出産後落ち着いたらたぶんこのみも復帰してくれると思いますから、どんな路線の歌を聴かせてくれるか、楽しみですね。

(written 2021.1.10)

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