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ぼくの『クッキン』A面愛 〜 マイルズ

(4 min read)

Miles Davis / Cookin’

マイルズ・デイヴィスのプレスティジ末期録音がかなり好きだ、特にそのモノラルな音響、という話は以前しましたが、音楽性もふくめ例のマラソン・セッションからできた「〜in’」四部作でいちばんいいなと思うのは『リラクシン』(1958年発売)。

でもそれら四作すべて、もとはレコードですからA面B面があったわけです。ぼくもCDメディアへの総切り替えまではずっとレコードを片面単位で聴いていたし、っていうんで面で考えたら『クッキン』(57年発売)のA面が絶頂的に最高なんですね。2曲目まで。個人の感想です。

ってことはつまりB面がぼくにはどうもイマイチで、がゆえにアルバム単位ではさまざまなセレクションに選んでこなかったんです。なんかダサいし。そんなこともあっていままでさほどは話題にしてこなかったアルバムかも。A面だけならな〜って切に思いますよ。

『クッキン』A面は音響も最高だし、それになんたって曲の構成がいいです。リリカルできれいな絶品バラードとスウィングする愉快なジャズ・ブルーズっていう、もうこれ以上ない並び。どっちの演奏もすばらしく、みごとにそれらしかないっていう、完璧じゃないですか、このA面。

1曲目の「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」のことはもはや語り尽くされているような気がしますが、1964年例のリンカーン・センターでのライヴ・ヴァージョン(『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』)と比較すれば、まだちょっとこじんまりスケール小さく落ち着いているこのプレスティジ・ヴァージョンがあんがい好きなんです。

それから、なんだかピアノ(レッド・ガーランド)とベース(ポール・チェインバーズ)の音が鮮明でいいですよね。『〜in’』四部作のなかでもこの面がいちばんサウンドがくっくりしているような気がぼくにはするんですけど、気のせいかも。同じ日の同じエンジニアによる録音だから差がないはずなのに、でもなんだかねえ。

そして2曲目のストレートな定型ブルーズ「ブルーズ・バイ・ファイヴ」こそ最も愛するもの。信頼しているブロガーが以前ハード・バップにおけるブルーズは退屈であるなんて書いていたもんだから、この種のことを言明するのになんだかちょっと引け目を感じるようになってしまい、ちょっぴり恨みに感じていますが、それでもなんど聴いても心から愛しているとしか言いようがない事実は変わらず。

ただのシンプルな定型ブルーズなんで演奏前の簡単な打ち合わせだけで本番に入っていますが、ここでもまたレッド・ガーランドがいいです。こういったジャズ・ブルーズをそもそも得意にしたピアニストではありますが、それにしてもここではいったいどうしちゃったんだろう?と思うほどの水を得た魚感。

三番手で出るそのレッドのソロは、お得意のシングル・トーン → ブロック・コードと前後半を使い分ける作法ではなく、終始シングル・トーンで鈴の転がるようなきれいなフレーズを奏でていて、ファンキーでもあるし、これ以上の快感はぼくにはないんです。たった5コーラスといわずその倍弾いてほしかった。

(written 2022.6.10)

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