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1982〜85年の未発表スタジオ音源に聴くブルーズ・サイドとポップ・サイド 〜 マイルズ

(5 min read)

Miles Davis / That's What Happened 1982-1985: The Bootleg Series, Vol. 7

ネットとかしたりなどでのんびり軽い気持ちで流し聴いたマイルズ・デイヴィスの『That's What Happened 1982-1985: The Bootleg Series, Vol. 7』(2022)。リリースされたばかりの未発表発掘音源集で、ちょうどワーナー移籍直前、コロンビア時代末期のものですね。リアルタイム・リリースでいえば『スター・ピープル』(83)、『ディーコイ』(84)、『ユア・アンダー・アレスト』(85)のあたり。

CDなら三枚組ですが、三枚目は83年7月7日のモントリオール・ライヴ。二枚目までがスタジオ・アウトテイクで、興味をひかれるのはそっちです。おおざっぱにいってディスク1がブルーズ・サイド、ディスク2がポップ・サイドということになるんじゃないでしょうか。

これは晩年のマイルズを決定づけた二大要素であるとともに、本来この音楽家がなにを大切にして1948年以来のソロ・キャリア全体を歩んだかということも象徴しているとぼくには思えます。そしてこれら二つは81年復帰後マイルズの50年代回帰ということを明確に示していますよね。

特にハッこれはおもしろい!と身を乗り出すのがディスク1に収録されたブルーズ・ナンバーの数々。なんたって2、3トラック目の「マイナー・ナインス」は、なんとJ.J.ジョンスン(トロンボーン)との再会セッションで、二人だけでの演奏。バンドはおらず、JJが吹く伴奏をマイルズがエレピでやっている(トランペットは吹かず)というもの。この上なくブルージーな雰囲気満点で、こ〜りゃいい。

しかしJ.J.ジョンスンですからね。正式共演は1950年代前半のブルー・ノートやプレスティジでのレコーディング以来っていう。なんでJJだったのかともあれ、このころマイルズがJJとひさびさに再会してなにか録音したらしいぞっていうウワサは当時飛び交っていて、ぼくも目にしたことがありました。

それがようやく日の目を見たということで。しかも「マイナー・ナインス」パート1でJJが吹いているのは電気トロンボーンのサウンドに聴こえるし、マイルズのエレピだってブルージーでコクがあってうまいですよ。やはりブルーズ・ナンバーで、こっちはバンドで演奏する4〜6「セレスティアル・ブルーズ」のパート3にもJJが参加しています。

ブルーズ、というかブルージーなフィーリングという点では、ディスク1の末尾に収録された9、10「フリーキー・ディーキー」もみごと。編集済みの完成テイクが『ディーコイ』に入っていましたが、それはふわふわただようようなアンビエント感満載のアブストラクトなものでした。

ところがここではナマのむきだしのアーシーなブルーズ・フィールをこれでもかと聴かせてくれて、ジョン・スコフィールドも本来の持ち味を存分に発揮しているし、いまのところたぶんぼくはこの2トラックが今回のディスク1でいちばん好きですね。聴きものだとも思います。

ディスク2をポップ・サイドと呼んだのは、1950年代からもともとポップ・バラードのリリカルでプリティな演奏に本領を発揮していたマイルズが、その長所をフルに取り戻したような演奏がたくさん楽しめるからです。「タイム・アフター・タイム」「ヒューマン・ネイチャー」の別ヴァージョンもあるし、以前先行で聴けるようになったときに記事にした「愛の魔力」(ティナ・ターナー)もあります。

今回のこのアルバム・リリースで初めて聴けるようになったものでいえば、100%未発表で存在も知られていなかった4曲目「ネヴァー・ラヴド・ライク・ディス」に実は惹かれました。オープン・ホーンで吹いていますが、曲題の意味が身に沁みてくるような、いいバラードです。マイルズ作とクレジットされていますけど、ホントかな?

マイルズ公式Twitterアカウントが言うように、このトランペッターはリリカルで内省的かつメロディックに演奏することに生涯を懸けた音楽家だったんですが、そんな特色が今回リリースされたこのアルバムでもよくわかります。

(written 2022.9.17)

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