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マイルズ「フラメンコ・スケッチズ」(59)と「ファット・タイム」(81)

(3 min read)

Miles Davis / Flamenco Sketches & Fat Time

の二曲が似ているんじゃないかという話をしたいわけです。前者は知らぬひとのない『カインド・オヴ・ブルー』のクロージング、後者は人気ないけど復帰作『ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン』のオープニングに置かれていたもの。

ジャズ史上最高傑作とすら言われることがある『カインド・オヴ・ブルー』のなかにある「フラメンコ・スケッチズ」と違って、いまでも散々な評判の『ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン』の「ファット・タイム」なんてほとんど話題になったことすらないかもですが、実は59年の前者に対するセルフ・オマージュですから。

自身の多くの強気発言とは裏腹に、すくなくとも音楽的には過去の自分をなんどもよくふりかえり吟味して焼きなおしたりで新作をつくっていたマイルズ。これもその一環というわけです。そもそも81年の復帰まで六年間休んでいたわけですから、じっくり内省する時間はこれでもかというほどあったはず。

音楽的に「フラメンコ・スケッチズ」と「ファット・タイム」はほぼ同じ構造をしています。いずれもあらかじめ用意されたテーマとかモチーフ、リフみたいものはなにもなく、提示されたのはただ複数のスケール(=モード)だけ。それを並べて、それに沿って各人が順にソロをとっているのが曲の実体です。

並べられたスケールは「フラメンコ・スケッチズ」のほうが五つ、「ファット・タイム」では六つ。そして前者ではその四つ目がスパニッシュ・スケールで、後者では五つ目がそう。このスパニッシュ・スケールを途中で使ってあって、そこでだけリズム・パターンも変化し、そのパートが各人のソロでいちばんの聴きどころ、急所であるという点でも両曲は共通しています。

もちろん大きな違いもあって、「フラメンコ・スケッチズ」はずっとほぼテンポ・ルバートに近いひたすら淡々とおだやかで平穏な演奏なのに対し、「ファット・タイム」のほうではかなり強いロック・ビートが効いていて、しかも後半は著しく高揚します。

そう、もりあがりというかピーク感が強い(マイク・スターンのソロ部と最終盤オープン・ホーンにしてのマイルズのソロ部)のが「ファット・タイム」の大きな特徴で、なにかがひたひたと迫りくるようなスリルとテンションを一気に解放するっていうそんな爆発が聴かれるのは、しかしこれも以前からマイルズの常套手段。

こうした部分以外は、ほぼ同じつくりになっているといえるこれら二曲。ぼくの考えでは、復帰作のレコーディングを進めていくうち、マイルズ自身『カインド・オヴ・ブルー』をじっくり聴きなおし、「フラメンコ・スケッチズ」がいいので同じパターンを使ってエレキ・バンドで現代的な新曲ができないかと案を練ったに違いないと思うんですよね。

(written 2022.7.4)

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