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トレインの「マイ・フェイヴァリット・シングズ」ならこれ 〜 『セルフレスネス』

(4 min read)

John Coltrane / Selflessness Featuring My Favorite Things

ちょっぴりジョン・コルトレインづいているので、もう一個だけ、インパルス時代でぼくの好きなトレインのアルバムのことを書いておきます。『セルフレスネス・フィーチャリング・マイ・フェイヴァリット・シングズ』(1969)。これも死後発売で、録音は1、2曲目が63年7月のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルでのライヴ。3曲目だけスタジオでの65年10月録音です。

アルバム題にはその3曲目のタイトルである「セルフレスネス」が選ばれていますが、「フィーチャリング〜」とのことばどおり、このアルバムの目玉はだれがどう聴いても1963年のライヴ演奏である1曲目の「マイ・フェイヴァリット・シングズ」ですよね。ぼくなんか最初に聴いたとき、あまりのものすごさに3メーターくらい空中を飛んだんですから。

「マイ・フェイヴァリット・シングズ」はトレーン生涯の愛奏曲で、1960年アトランティックへの初録音以後ライヴではくりかえし演奏していました。公式に録音され発売されているものだけでも数があるわけですが、『セルフレスネス』収録の63年ニューポート・ライヴ・ヴァージョンこそ No.1である、間違いない、という評価は、たぶん八〜九割のジャズ・ファン、トレイン・ファンのみなさんも同意なのではないでしょうか。

『セルフレスネス』での「マイ・フェイヴァリット・シングズ」は、まずトレインが最初テナーでイントロをちょろっと吹きます。この曲はソプラノとの印象しかないのでオッ!と感じますが、やっぱりすぐにソプラノにチェインジしますね。テーマを演奏したらソロ一番手がマッコイ・タイナーのピアノっていうのはいつものパターン。マッコイはトレイン・カルテット四人のなかではいちばんの守旧派みたいなもんなんで、わりと聴きやすいメインストリームなソロ内容と言えるんじゃないでしょうか。

そしていよいよトレインのソプラノ・サックス・ソロが登場。激情ほとばしるといった感じで、フレーズが次々と湧いて止まらず、シーツ・オヴ・サウンズ手法もここに極まっています。ときどきフリーキー・トーンも織り交ぜつつ、トレインは音数多く吹きまくります。このサックス・ソロ内容があまりにも超絶的でアグレッシヴなので、そのためにここまでの名演になりえたのだと、だれもが納得できる内容ですよね。本来テナー奏者であるトレインのソプラノ吹奏技術も完璧の域に達しています。

ここまでトレインがアグレッシヴに吹きまくった一因として、この1963年7月のニューポート・ライヴではドラムスがエルヴィン・ジョーンズじゃなくてロイ・ヘインズであったこともあげなくてはなりません。エルヴィンは事情があっていっときバンドを離れていて、このニューポート・ライヴのときのピンチ・ヒッターでロイが起用されたんですね。

そのロイのドラミングがかなり攻めていますよね。シンバル・ワーク中心のエルヴィンに対し、ロイはスネアでのプッシュがメイン。どんどん前のめりに突っ込むようなスネア・ドラミングでフロントのトレインをあおりまくっています。たぶんロイの生涯最高名演に数えられるであろう演奏で、このドラマーこそこのときの「マイ・フェイヴァリット・シングズ」をここまで高みに追い込んだ大きな功労者だったかもしれません。

(written 2020.8.11)


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