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ネオ・オーガニックなアメリカン・タペストリー 〜 ルーマー

(3 min read)

Rumer / Nashville Tears: The Songs of Hugh Prestwood

萩原健太さんに教えていただきました。

パキスタン生まれのイギリス人歌手ルーマー(サラ・ジョイス)。いまはアメリカに住んで活動しているみたいで、シンガー・ソングライターだったんですけど、ジョージア州メイコンに定住して、結婚して母になってからは、ちょっと活動が停滞気味だったみたい。

といっても今年の新作『ナッシュヴィル ・ティアーズ:ザ・ソングズ・オヴ・ヒュー・プレストウッド』(2020)がなかなかいいし、その前作であるバート・バカラック集『ディス・ガールズ・イン・ラヴ』が2016年の作品でそれは最高だし、イギリス時代ほどではないにせよ、そこそこ充実したアルバムをリリースしています。

そう、ここ二作のルーマーは特定のソングライター集みたいなアルバムを出しているんですね。自身がシンガー・ソングライターのルーマーにして、決して自分には書けないであろうような曲を知ったり、それに挑んだりして、世界がひろがるといった経験もしているのかも。

今年の新作が『ナッシュヴィル ・ティアーズ』と題されているのは、録音・制作がナッシュヴィルで行われたからでしょう。アルバムのなかにそういう曲はありませんからね。とりあげられているソングライターのヒュー・プレストウッドというひとについてはぼくはなんにも知らず。今回が初邂逅ですが、ルーマーのこのしっとり落ち着いた声で聴くと、ほんとうにいい曲を書くんだなあと実感しますね。

ルーマーのこともはじめて聴いたんですけど、こんないい歌手にいままで出会えていなかったということに後悔を感じるほど。声もいいし、歌いかたもみごと。曲がいいのと歌手の声が美しいのと、ジャケットもきれいだし、『ナッシュヴィル ・ティアーズ』はアルバムとして完成度の高い作品なんだなと納得できますね。

ナッシュヴィル発ということで、カントリー色が濃いのかというとそんなこともなく、もっとポップな感じがします。現地のミュージシャンたちを起用したんだろうと思いますが、基本アクースティックなリズム・セクションに、エレキ・ギターがちょこっとだけ入る(+ストリング・アンサンブル)っていう、そんなサウンドですね。この手のネオ・オーガニック・ポップみたいな音の質感は、アメリカン・ポップスでここのところ流行しているもので、ぼくも聴き慣れています。

ちょっぴりカレン・カーペンターを思い出させるルーマーの美しい声と、アメリカのタペリトリーみたいなヒュー・プレストウッドのソングブックがあいまって、えもいわれぬ居心地のよさを感じさせてくれる、心休まるアルバムじゃないですかね。

(written 2020.10.9)


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