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なぜ『レイラ』が好きなのか 〜 デレク・アンド・ザ・ドミノス

(8 min read)

Derek and the Dominos / Layla and Other Assorted Love Songs

エリック・クラプトンの全作品中いちばん好きだし最高傑作だとも思うデレク・アンド・ザ・ドミノスのアルバム『レイラ・アンド・アザー・アソーティッド・ラヴ・ソングズ』(1970)。なぜかこないだちょっと思い出すことがありました。2020年は50周年でしたし。聴きかえしての現在の感想をちょっと記しておきましょう。

アルバム『レイラ』でいちばん好きなのは、そこはかとなくただよい香る米南部感。鮮明とまではいかないけれど、それとなくふわっとスワンピーなフィーリングがあるでしょ、そこがお気に入りなんですよね。

その原因はもちろんサザン・ロック・ギターリストのヒーローであるドゥエイン・オールマンのゲスト参加もありましょうが、むしろそれ以上にこのリズム・セクションのおかげですよね。ディレイニー&ボニー・アンド・フレンズのリズムだった鍵盤のボビー・ウィットロック、ベースのカール・レイドル、ドラムスのジム・ゴードン。

この三人こそデレク・アンド・ザ・ドミノスの中核ですよね。ディレイニー&ボニー・アンド・フレンズの軸だったわけですから、もちろんLAスワンプ人脈というわけで、エリック・クラプトンの求めていた楽曲重視志向、米南部サウンド志向を実現させる最大のファクターとなりました。

その結果としてなんとなく香ってくる米南部風味こそ、ぼくにとってのこのアルバム最大の魅力で、いまでも聴けば感心するのはそこですね。ブルーズなどブラック・ミュージックを土台とするアメリカーナで、しかしかならずしもダウン&ダーティな感じではないスワンピーさっていう、そんなところがぼくにとってのアルバム『レイラ』です。

リラクシングなムード、というのもこのアルバムでは重要で、クラプトン自身、それを強く求めていたんだなというのが聴くとひしひしと伝わってきますよね。しのぎを削るようなハードな楽器インプロ・バトルを中心とするスーパー・バンドに嫌気がさして、こういったLAスワンプ〜アメリカーナ志向へと踏み出したんですから。

だから楽曲重視という面がとても大切で、聴き手のぼくも全体的によく練れ構成されて整っている音楽を好むという人間ですので、アルバム『レイラ』でもやっぱりイマイチに感じるトラックもあります。「キー・トゥ・ザ・ハイウェイ」とかですね。実は「リトル・ウィング」も大げさなファンファーレが(LAスワンプとは反対の態度の)虚飾に聴こえて、あまり好きじゃありません。

そう、ギター・インプロよりも楽曲志向、虚飾を配した素直でナチュラルなアレンジと音楽構築、寄らば斬るぞといわんばかりの緊張感よりもイージーでリラクシングでアット・ホームなムード、といったあたりがこのアルバム『レイラ』で、いま聴いても最も好きな部分。

クラプトンは、ザ・バンドなどをはじめ一連のあのころのルーツ・ロック(アメリカーナ)・ムーヴメントに触れ、そういう方向にみずからの音楽性の舵を切ったと思うんですよね。ジャズ・ファンであるぼくはクリームやブラインド・フェイスも好きだったんですけど、デレク・アンド・ザ・ドミノスのこの心地よさにはすっかりはまってしまいました。そう、心地いいし、疲れないんですよね。

この『レイラ』のテーマは、ご存知のように親友の妻に横恋慕して実らぬ恋に身を焦がし焼けてしまう激情、っていうことなんですけど、そういったラヴ・ソングの数々をやりながらも、アルバム全体の音楽的なムードは、そういったパッショネイトさよりも、むしろもっと日常的な安楽気分、楽しく音楽を仲間でやっているというリラックス・グルーヴのほうがまさっているんじゃないでしょうか。

破天荒な型破りよりも、きっちり整ったウェル・アレンジドな音楽が好きなんだと自覚できるようになった最近では、やっぱりこういった『レイラ』みたいな、テーマは焼けるような恋情や失望かもしれないけど音楽的果実としてはおだやかで静かでリラクシングな雰囲気が、もうほんとうに大好きですね。

イージーなリラクシング・ムード、ウェル・アレンジドな楽曲志向、アメリカーナ的ルーツ・ロックへの眼差しという特徴は、アルバム1曲目の「アイ・ルックト・アウェイ」を聴くだけで納得できるはず。これですよ、これ、ぼくが音楽に求めているものは。まさに1970年のサウンドですよね。一枚目A面の四曲はこのムードで満たされています。聴くと心が落ち着きますよね。

そんな雰囲気がアルバム全体を支配していますが、出だしの1曲目に「アイ・ルックト・アウェイ」を持ってきたのはたいへんよく納得できます。象徴的に特徴がよく表れていますし、それくらいアルバム・オープナーというのは大切なんですよね。全体の方向性を左右する力がありますから。一枚目B面にはあまり好きじゃないただのジャム・セッションである「キー・トゥ・ザ・ハイウェイ」がありますが、ほかはやはり似た傾向が続きます。

(LPでいう)二枚目A面に来て、やはり1曲目の「テル・ザ・トゥルース」が「アイ・ルックト・アウェイ」と同じ路線。続く二曲はややハードですが、クラプトンとドゥエインがギターでからみあいながらヴォーカルとともに進行するパートなんかにはゾクゾクするような快感がありますよね。一聴ギター・インプロ重視か?とみえて、実はそうではありません。曲として立つことに最大限の配慮がなされているわけです。

最終の二枚目B面。言いましたようにイントロやアウトロなどで使われているファンファーレふうのギター・フレーズがどうしても好きになれないし不出来だとも思う「リトル・ウィング」(ジミ・ヘンドリクス)のことはおいといて、2曲目「イッツ・トゥー・レイト」(チャック・ウィリス)はリズム&ブルーズで楽曲重視な一曲。「レイラ」も一見ハードなように思えて、実はこのリズム、スワンピーに跳ねリラクシングですよね。ピアノ・インタールードが入っての後半では、それがより顕著です。

続くアルバム・ラストの「ソーン・トゥリー・イン・ザ・ガーデン」は最高のコーダです。ひょっとしたらアルバム中、「アイ・ルックト・アウェイ」とこのエンディングがいちばん好きかもしれません。

(written 2020.11.8)

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