見出し画像

ぼくの『ジョン・ウェズリー・ハーディング』愛 〜 ボブ・ディラン

(3 min read)

Bob Dylan / John Wesley Harding

2022年現在、ボブ・ディランの全作品中いちばん好きなのは1967年の『ジョン・ウェズリー・ハーディング』。次が69年の『ナッシュヴィル・スカイライン』だっていう、だから、わかりやすいですね、いまのぼくの趣味。

おだやかでフォーキーでアクースティックなカントリー・ロックをやるディランが好きというわけなんですが、前からこうだったわけじゃありません。そりゃあトゲトゲしいエレキ・サウンドで歌詞も辛辣なブルーズ・ロックをやっているのが好きだった時期が長いんです。

歳とっておだやかさっぱり嗜好に変化したというわけ。キリッとした冷たく透明な空気を感じるさわやかな『ナッシュヴィル・スカイライン』も大好きですが、緊張感のないまったりムードな『ジョン・ウェズリー・ハーディング』こそいまでは無上の快感。

なんたって楽しげでくつろいだサロン・フィーリングが聴きとれますもん、そこからしてストライク・ゾーンですよ。1曲目のタイトル・チューンからそれが全開。なにを歌っているかということよりも、このアクースティック・ギターの地味なカッティングをメインに据えたサウンドがいいと思うんですね。

伴奏もすばらしい。ディランのギターとハーモニカ(曲によりピアノ)以外は、基本的にベーシスト(チャーリー・マッコイ)とドラマー(ケネス・A・バトリー)しかいないシンプルなトリオ構成。二名ともナッシュヴィルのミュージシャンですが、ただ淡々と役割をこなすことを徹底した職人芸で、こういう演奏にこそ惹かれます。

ツボだけを着実におさえながら、それでもときたまハッとするラインを奏でる瞬間もあり。たとえば1曲目のスネア・フィル・インとか2曲目「アズ・アイ・ウェント・アウト・ワン・モーニング」で聴かれるオブリでのベースの跳ねかたなんか、いいアクセントになっていて耳をそばだてます。でありながらサウンドはどこまでも堅実。

要はあくまでディランの書き歌うものをどこまでもひきたてるため、そのためにこそすべてをささげたサポートぶり。落ち着いたフィーリングの曲もいいし、もはやここに足すものも引くものもなにもない必要最小限の音楽の構築美があります。ノリいい曲もあればチャーミングなバラードもあり、しかしいずれも中庸でおだやかで、心地いいくつろぎを表現しているのがこのアルバムの美点。

(written 2022.5.18)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?