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レイ・ブライアント、1958年のソロ・ピアノ・ブルーズ

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Ray Bryant / Alone with the Blues

ジャズ・ピアニスト、レイ・ブライアントが、ソロ・ピアノ演奏で、しかもブルーズをメインにやって、脚光を浴びるようになったのは、あくまでオスカー・ピータースンの代役で出演した1972年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァル(『アローン・アット・モントルー』)以後だと思うんですけれども、1950年代から独奏でブルーズをやっているというものがありました。

ぼくが無知だから知らなかっただけですけど、アルバム『アローン・ウィズ・ザ・ブルーズ』(1958年録音59年発売)。レーベルはニュー・ジャズ。なつかしいですね。ニュー・ジャズのカタログはいまファンタジーがリリースしているみたいです。これ、ソロ・ピアノによるブルーズ集なんですよね。

このアルバムは、以前一度くわしく書いたプレスティジの『レイ・ブライアント・トリオ』の次作にあたるんですね。いやあ、どうしてこないだまで気づいていなかったんだろうかなあ。こないだふらっと、レイのことでSpotifyをブラブラしていて偶然発見しました。ジャケットの雰囲気は暗くて陰鬱でパッとせず、それだけはいただけないですけどね。

でも中身は上質です。『アローン・ウィズ・ザ・ブルーズ』に収録の全七曲のうち、「ブルーズ」という名前が正副題についているものが四曲。それらはストレートな12小節3コードのオーセンティックなピアノ・ブルーズです。そのほか、ビリー・ホリデイやチャーリー・パーカーで有名な「ラヴァー・マン」もやっていたりしますけど、それ以外の二曲「ロッキン・チェア」と「ストッキング・フィート」もブルージーで、っていうかそれらも実質ほぼブルーズ演奏と呼んでいいでしょう。

いっさい伴奏者なしで、レイひとりのピアノ独奏でやっているわけですけど、このひとのキャリアではたぶんこのアルバムを録音した1958年がソロ演奏の最初だったんじゃないでしょうか。これ以前に見当たりませんからね。いったいだれの発案でレイにソロ演奏をやらせてみようとなったんでしょうか。もちろんピアノという楽器は、そもそもはソロで弾くのがあたりまえのものでしたけどね、古典ジャズ界では。

それを伴奏のリズム・セクションをつけてトリオでやるのを標準にしたのは1940年代のナット・キング・コールで、その後楽器編成をちょこっと変えてモダン・ジャズ時代になってからバド・パウエルが(+ベース&ドラムスの)ピアノ・トリオのフォーマットを一般化しました。それ以後のことは言う必要がありませんね。

レイもモダン・ジャズ・ピアニストのひとりですけど、資質的に古典的なジャズ・ピアノ・スタイルもあわせもっている人物で、右手と左手をバランスよく使ってオーケストラルな演奏のできるピアニストなんですね。だから、このアルバム『アローン・ウィズ・ザ・ブルーズ』のプロデューサー、エズモンド・エドワーズもそこに目をつけたのかもしれないです。

それで、ソロ・ピアノでやらせるんならブルーズ中心でやったらどうか?みたいなアイデアになったんでしょうかね。はたして、結果は立派なできばえです。1972年の『アローン・アット・モントルー』みたいな派手さはないものの、レイ本来の持ち味であるかわいくてチャーミングなリリカルさと、ブルーズ表現のブルージーさがちょうどいい具合にブレンドされ、聴きやすいソロ・ピアノ・ブルーズになっていますよね。

どんなふうに弾くにしろ、ソロでブルーズをやるにせよ、いつもの常道から決して外れないレイの中庸な持ち味がここでも発揮されています。『アローン・アット・モントルー』の世界のひながたはすでにここにある、と言うことができるでしょう。もちろんあんなにぐいぐい押しまくる迫力はまだないんですけど、こっちはこっちで落ち着いていて、ふだん聴きにはちょうどいい味なんじゃないかと思えます。

(written 2020.11.10)

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