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#BlackLivesMatter 〜 シャンダ・ルール

(4 min read)

Chanda Rule + Sweet Emma Band / Hold On

萩原健太さんのブログで知りました。

アメリカ人歌手、シャンダ・ルール(Chanda Rule)。新作『ホールド・オン』(2020)をリリースしている名義のスウィート・エマ・バンドというのは、もちろんニュー・オーリンズのジャズ・レジェンド、スウィート・エマ・バレットにちなんで命名されたものでしょう。シャンダ自身の音楽スタイルがニュー・オーリンズ・ジャズと関係あるかどうかわかりませんが、南部的黒人音楽のルーツに根ざした活動をしているのは間違いありません。シカゴ生まれワシントン DC 育ちですけどね。

アルバム『ホールド・オン』は、たぶんゴスペル・ベースのソウル・ジャズ作品と呼んでいいだろうと思えます。それも1960年代的なフィーリングが濃く、黒人としての人権意識の高揚や、生活感覚に根ざしたアメリカン・ブラック・ルーツをさぐってよみがえらせたような感覚が横溢、ちょうど21世紀のブラック・ライヴズ・マター運動と強く共振しているような音楽じゃないでしょうか。音楽的にもアティチュード的にも公民権運動のころのジャズ・ヴォーカル作品みたいな空気を感じます。

歌われている曲はトラディショナルやゴスペル・ソングが多く、バンド編成はシャンダのヴォーカルに、ハモンド・オルガン、三管(トランペット、トロンボーン、サックス)+ドラムスと、いたってシンプル。ゲスト的にパーカッショニストやハーモニカ奏者も一部いますが、全編アクースティックなオーガニック・サウンドで構成されています。スカスカで、しかも土くさ〜い音楽で、アメリカン・ブラック・ルーツを生のままよみがえらせ現代化したようなアルバムですね。

1曲目「アナザー・マン・ダン・ゴーン」でタブラの音が聴こえますが、エスニックな響きはしていないようにぼくには聴えました。もっと普遍的というかユニヴァーサルな打楽器効果音として活用されているなと思うんです。タブラは4「サン・ゴーズ・ダウン」でも同じような活用のされかたをしていますね。タブラが、もはや民族楽器との枠を超えたパーカッションになったんだなとわかるサウンドです。

アルバムで個人的に特にグッと来るのは、ストレート・ジャジーな2「アイル・フライ・アウェイ」とやはりジャジーにニーナ・シモンを展開した8「シナーマン」、ミディアム・スローでグルーヴィなソウル・ジャズである3「ロザリー」(ルー・ドナルドスンの「アリゲイター・ブーガルー」にちょい似)、ホーンズのそれもふくめリズムがいい4「サン・ゴーズ・ダウン」、教会ゴスペルなハモンド・オルガンが鳥肌な5「マザーレス・チャイルド」あたりでしょうか。

シャンダの声もディープで、1960年代の、あの時代のあのフィーリングを持ちつつ、そこから遠い過去のルーツにまでさかのぼるパワーと2020年代に訴えかける時代のレレヴァンスの双方向の視野を同時に獲得しているようなひろがりとふくらみがあって、デューク・エリントン・サウンドを軸に据えつつアメリカ黒人400年の歴史を凝縮したようなバンド・アンサンブルともあいまって、このアルバムの音楽に説得力を与えています。

偉大なマヘリア・ジャクスンが歌ったデュークの「カム・サンデイ」(『ブラック、ブラウン・アンド・ベージュ』)をアルバム・ラストにもってきていますが、シャンダがこのアルバムでなにを目論んだのか、音楽的な意図や構図も鮮明になっているなと思います。黒人教会やコミュニティ・ベースのアフリカン・アメリカン・カルチャーに根差した音楽を再解釈していまの時代に届けることが、現代に黒人としてアメリカで生きる意味をも表現するんだという覚悟ですね。

ナイーヴに古いスタイルの音楽であるように思えて、同時にストレートに2020年的な現代の先鋭的なサウンド・スタイルにも聴こえるという、ちょっと不思議な肌ざわりの音楽です。リアノン・ギドゥンズあたりとも響きあう部分多し。

(written 2020.6.25)


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