見出し画像

マイルズのB面名作(2)〜『コレクターズ・アイテムズ』

(4 min read)

Miles Davis / Collectors’ Items

これも1953年録音のA面と56年のB面(5曲目から)はなんの関係もないアルバムであるマイルズ・デイヴィスの『コレクターズ・アイテムズ』(1956)。変名でチャーリー・パーカーが参加しているという事実以外におもしろみがないと個人的には思うA面とは対照的に、B面三曲は立派な演奏なんです。

それら三曲をレコーディングしたセッションがちょっとおもしろいのは、その56年3月16日というとマイルズはすでにファースト・レギュラー・クインテットを結成済みで、正規録音もちょっとはしていたということ。

それなのにこのときだけバンドを使わず、ソニー・ロリンズ、トミー・フラナガン、ポール・チェインバーズ、アート・テイラーで三曲やりました。ロリンズ重用はつとに有名ですが、フラナガン(大好き)とはこれが生涯唯一の共演記録で貴重。

そんなこともあってか、つまんないな〜とぼくは感じるA面に比し、むかしからこのB面が個人的大好物。そりゃあもうこっちばっかりターンテーブルに乗せていました。53年だとまだビ・バップの余韻から抜け出せず模索中だったのが、56年なら立派に自己の音楽スタイルを確立していましたし。

三曲では、トップの「ノー・ライン」からしてハーマン・ミュートで鈴の転がるようなチャーミングな音色でもって軽快にスウィングするトランペッターの妙味に惹きつけられます。曲題は、テーマなしいきなりインプロではじまりそのまま終わるっていうものだからでしょう、おそらく。

オープン・ホーンで吹く二つ目の「ヴィアード・ブルーズ」は定型12小節。そして実はこのブルーズ、レギュラー・クインテットでやった同年五月ヴァージョンが『ワーキン』に収録されています。同じ曲ですが、あっちでは「トレインズ・ブルーズ」という曲題になり、作者もジョン・コルトレインにクレジットされています。

それと比較すると「ヴィアード・ブルーズ」のほうはテンポと重心が低く、しかもややコミカルというかユーモラスなファンキーさをただよわせているのが特徴。ブルーズのうまいフラナガンの持ち味も光ります。こっちのほうがぼくは好みです。

こうした中庸テンポでのファンキーさは『バグズ・グルーヴ』B面でも味だったもので、「ヴィアード・ブルーズ」のこうしたラインの上下をあわせ勘案すると、あるいはひょっとしてこれもロリンズの書いたものなんじゃないかと思ったり。マイルズにクレジットされていますけども。

三つ目のプリティ・バラード「イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ」。これこそ全体的にすぐれているこのB面のなかでも特に傑出していて、大学生のころからこれ一曲を溺愛してきました。やはりレギュラー・クインテット・ヴァージョンが『ワーキン』で聴けますが、ぼくの耳にはこっちのほうがいっそう美しく切なく響きます。

(written 2022.12.27)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?