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2021年に甦ったヒル・カントリー・ブルーズ 〜 ブラック・キーズ

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The Black Keys / Delta Kream

ハード・ロック、ブルーズ・ロックで思い出しました、今年五月のリリース以来お気に入りになっていたのにもかかわらず、なぜだかいままで書かずにいたブラック・キーズの新作『デルタ・クリーム』(2021)。実はほんとうに大好きなので、この際ちょこっとメモしておきましょう。

『デルタ・クリーム』は、2002年のデビュー当時からブラック・キーズが影響を隠してこなかった北ミシシッピのヒル・カントリー・ブルーズへの全面的なオマージュ・アルバム。全11曲、すべてヒル・カントリー・ブルーズ・スタンダードのカヴァーで、オリジナルは一曲もなし。ジュニア・キンブロウとかR. L. バーンサイドのレパートリーだったものが中心です。

いままでもヒル・カントリー・ブルーズ愛を表明してきたとはいえ、ここまで全面的なトリビュートをブラック・キーズがやったのははじめて。それがぼくにはたいそう気持ちよくて、しかもゲスト・ミュージシャンを迎えスタジオでのライヴ・セッション一発録りだったこともわかる音響で、そんなナマナマしさだって大好き。リハーサルなし、たった二日間で録音完了したそう。

ゲスト・ミュージシャンというのがこれまた目を(耳を)引くもので、なかでもR. L. バーンサイドのバンドで活躍したギターのケニー・ブラウンと、ジュニア・キンブロウのベーシストだったエリック・ディートンの二名。直系のエッセンスを注入したかったということでしょうか。

ケニーとエリック両名は、実際『デルタ・クリーム』で大活躍。特にケニーのギュンギュンっていうスライド・ギターですね、聴けば瞬時にケニーとわかる独自のスタイルを持っていますから。

一度聴いたらヤミツキになるケニーのスライド・サウンド、1990年代のバーンサイドの諸作やライヴでたっぷり味わいましたから、『デルタ・クリーム』を聴いているとまるでタイム・スリップしたかのような感覚におそわれ、快感です。

バーンサイドやキンブロウらと共演を重ね、バーンサイドからは「白い息子」とまで呼ばれたケニーは、全盛期ヒル・カントリー・ブルーズの中核を担っていた存在。ケニーの全面参加で、ブラック・キーズが一気にディープ・サウスの深奥のブルーズ・グルーヴを獲得しているような感じです。

ナマの(rawな)、つまりちょっとロー・ファイでザラついたガレージな音の質感を活かしたできあがりなのは、いかにもブラック・キーズらしいとも言えるし、もともとヒル・カントリー・ブルーズの諸作だってそうでした。コミュニティ内部の、現場の、空気感をそのまま真空パックしたようで、いいですねえ。

アルバムは、ジュニア・キンブロウ・ヴァージョンを下敷きにしたジョン・リー・フッカーの「クロウリング・キングスネイク」でどす黒くはじまり、そのどす黒さを保ったまま最後まで進みます。3曲目「プア・ボーイ・ア・ロング・ウェイ・フロム・ホーム」(ケニーが冴えている)でのこのノリとかビート感なんか、迫力ありますね。

ブラック・キーズのダン・オーバックも、ヒル・カントリー・ブルーズならではっていうギターで短くシンプルな同一フレーズを延々と反復することによってヒプノティックな快感グルーヴを産むという例の手法を、どの曲でも活用していて、5曲目「ゴーイング・ダウン・サウス」でもそうですね。

バーンサイドが生き返ったのかと思うような6曲目「コール・ブラック・マティ」や10「メロウ・ピーチズ」、ロー・ダウンでヘヴィ&ダーティなグルーヴを聴かせるジュニア・キンブロウの7「ドゥー・ザ・ロンプ」と8「サッド・デイズ、ロンリー・ナイツ」など、ほんとうに全盛期90年代のヒル・カントリー・ブルーズが2021年に甦ったのかと錯覚するような内容。

ただひたすら気持ちいいです。

(written 2021.9.21)

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