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大好き!ルイーザ・ソブラル(1)

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Luisa Sobral / Lu-Pu-I-Pi-Sa-Pa

大好きな歌手を見つけました。といっても前から活動しているみたいですが、ポルトガルのルイーザ・ソブラル(Luísa Sobral)。2011年作を皮切りにいままでにアルバムが五つあり、うち最初の二つはどうしてだか Spotify にありません。だから近作三つをくりかえし聴いているんですが、もう完全にぼく好みの新世代女性ジャズ系シンガー・ソングライターですね。二日に分けて書いてみたいと思います。今日は2014年作『Lu-Pu-I-Pi-Sa-Pa』について。

ルイーザの経歴とかはネットで調べれば読めますのでぼくは省略します。音楽の話をしますけど、2014年作『Lu-Pu-I-Pi-Sa-Pa』はたったの27分しかないんですね。このこじんまりしたたたずまいも好感触。ジャケットの印象(と中身の音楽もそうなんですが)もあいまって、まるで可愛い切手をながめているみたいな、そんな親近感のあるほっこり気分になれますよ。

アルバム題は 'Luísa' という自分の名前の綴りをちりばめたものだと思いますが、まず1曲目でやわらかいホーン陣の響きが入ってきただけでいい気分になります。それがわりとジャジーですよね。曲のリズムも4/4拍子で、生楽器演奏のアクースティックな響きをメインにルイーザがことばを乗せていきます。この歌手は必ずしも歯切れよくリズミカルに歌うタイプじゃなく、もっとこう、悪く言えばモッサリしていますが、ひるがえればソフトでおだやかな表情を見せていて、それが個人的には悪くない感触です。

2曲目は曲題どおりコンピューターがテーマになっているのかもしれません。でもデジタル・サウンドはあくまで効果音的なものにとどまり、やっぱりあくまで演奏楽器の音で組み立ているのがルイーザの特色なんでしょうね。デジタルなサウンド・エフェクトはユーモラスな響きももたらしていてなかなかおもしろいところです。息抜き的な一曲かなと思いますが、それでもやはりジャジーです。

3曲目以後はほぼ完全にルイーザ流のジャズ・ポップ・ソングが並んでいます。生音(アクースティック・サウンド)の楽器演奏を中心に組み立てられたバックの演奏もいいし、曲をルイーザが書いていますけどそれもキュートでセンチメンタル。ポップな味でジャジーにやるソング・ライティングとヴォーカルがとってもチャーミングだと感じます。やっぱりところどころでオモチャっぽいサウンド・エフェクトを使ってあるのも楽しいですね。

上でも書きましたが快活なリズムに乗って歯切れよく歌うタイプじゃないっていうそんな発声のルイーザだからなのか、自分の持ち味をちゃんと理解しているということか、曲はバラード調の落ち着いたものが多いのもこのアルバムの特色でしょうね。そんななかでも7曲目と10曲目は特筆すべきジャジーなできばえですよ。どちらも古き良きディキシーランド・ジャズのスタイルなんですね。

どっちの曲もチューバがベース・ラインを吹き、リズムは2/4拍子。それで7曲目ではホーン・アンサンブルが全曲とおし鳴りわたっていますがそれがもう完全にディキシーなんです。わざとこういったオールド・スタイルに忠実な超レトロ・アレンジをほどこしていますよね。10曲目でもディキシーふうのクラリネットがオブリガートで大活躍。やっぱりユーモア味もあって、これら二曲が個人的にはこのアルバムのクライマックスかもしれません。

いや、ちょっと待ってください。アルバム・ラスト11曲目。全体的にこじんまりと地味におさまっている印象のこのルイーザの2014作のなかでは、しかしこの曲だけ華麗で瀟洒なストリング・アンサンブルが起用されているのが耳を惹きます。だれがアレンジしているのか(ちょっぴりジャキス・モレレンバウムっぽい)その弦楽の響きがこりゃもうありえないほど美しいでしょう。ルイーザもていねいにことばをおいていて、歌唱資質に曲想とアレンジがよくフィットしているし、このラスト・ナンバーはマジ絶品ですね。

(written 2020.3.13)

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