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マイルズを深掘りする(4)〜 カムバック以後篇

(6 min read)

いやあ、この四日間、ひさしぶりにマイルズをたくさん聴きかえしましたねえ。

マイルズ・デイヴィスの知られざる好演をご紹介するシリーズ最終日のきょうは、1981年カムバック以後のセレクションです。91年に亡くなっていますので10年間。トータル録音数が75年以前に比べると少なく、さらに未発表スタジオ音源も(ライヴもだけど)まだあまり発掘・リリースされていません。

あれが録音されているはずだだとか、これがまだ未発売だとか、ウワサみたいなものだけたくさんあって、実証的にはまだまだ解明途上。三曲あるというプリンスとの共演音源だって、まだ一曲しか正式発売されていないんだしねえ。

そんなわけで当時、あるいは死後、公式発売されている既発アルバムなどから選んでいくことになりましたので、きのうまでと比較してイマイチおもしろみに欠けるかもしれないです。そもそもカムバック後のマイルズはあんまり…みたいな言説には同意しませんが。

以下、リリース年順に並べましたが、カッコ内記載の録音年月日は推測です。この時期のマイルズ音源のデータ研究はいまだ進んでおらず、正確な日付までは判明しないことがほとんどです。

1. Fat Time (1981/3)

 カムバック・アルバムだった『ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン』は、当時もいまも評価が低いですね。1曲目のこれはテーマとかモチーフがなく、並べられた数個のスケールだけ用意され、それを順に使って各人がソロをとり、スパニッシュ・スケール部分でだけリズムも変化するという、いわば現代版「フラメンコ・スケッチズ」。ファット・タイムとのあだ名どおりギターのマイク・スターンのショウケース。ぼくは大好き。

2. Ursula (81/1)

 聖ウルスラのことだけど英語読みなら「アーシュラ」。スタジオ・セッションで偶発的に誕生した4/4拍子のストレート・ジャズ・ナンバーで、完全一発即興のおもしろさを実感できるものですね。これぞ “フリー”。バリー・フィナティー(ギター)が入ってくる瞬間の緊張緩和感がなかなかのものです。

3. Star On Cicely (82/8/11)

 シスリーとは当時の結婚相手だったシスリー・タイスンのこと。これもなんだかスパニッシュふうで、マイルズがメロディを吹きつつ、対位的にギター(スターン)とエレベ(マーカス・ミラー)がからむというアレンジ(ギル・エヴァンズ)がなかなか魅力的じゃないでしょうか。くりかえされる合奏テーマや、ソロの一部は、87年ごろから頻繁に演奏された「リンクル」へと姿を変えました。その意味でも重要な一曲。

4. Katia (85/1/10)
5. You’re Under Arrest (84/12/26)

 このへんからマイルズはバカにされるようになり、マジメなジャズ・クリティシズムからは相手にされなくなりました。ファンクな「カティーア」でのハードなギターは、ゲスト参加だったジョン・マクラフリン。「ユア・アンダー・アレスト」はジョン・スコフィールドの書いたジャズ・ナンバーで、ずばり難曲。ヘビのようなうねうね変態ラインがたまらない。だれひとり話題にすらしないけど、カッコいいんじゃない?

6. Tomaas (86/3)
7. Full Nelson (ibid)

 ワーナー移籍第一作『ツツ』からはタイトル曲やスパニッシュな「ポーシア」などが有名と思いますが、このへんもぼくは好きですね。どちらもその後のライヴで頻演されましたが、オリジナル・スタジオ録音には一種独特のムードがあって、再現はできません。「フル・ネルスン」ではマイルズの声をサンプリングして随時挿入し、グルーヴを産んでいますね。

8. Jilli (89)

 『アマンドラ』のなかでは、この曲だけジョン・ビガムが主導権を握って製作されたものだからちょっと浮いていて、だから再生回数もかなり少ないですが、アルバムのテーマともいえるアフロ・カリビアンなサウンドやリズムはアルバム中これだってなかなかのもの。ゴー・ゴー・ビートを叩くリッキー・ウェルマンが生演奏ドラムスで参加しているのがポイント高し。

9. High Speed Chase (91/7)
10. Fantasy (ibid)

 死後リリースだった『ドゥー・バップ』は、DJでラッパーのイージー・モー・ビーのプロデュースしたヒップ・ホップ・ジャズのアルバム。1992年の発売で、翌年にUs3なんかの話題が沸騰したので、先鞭をつけたものだったかも。トランペット演奏は、85年のラバーランド・セッションから多く流用されています。

11. Rubberband of Life (Amerigo Gazaway Remix) (85 / 2018)

 一連の『ラバーバンド』リリース・プロジェクトから誕生した曲のなかではこれがいちばんカッコいいと思うのに、知名度はゼロ。なぜなら配信オンリーの『ラバーバンド EP』(2018)でしか聴けないからですね。最小限にまで音数を減らしたスカスカの空間を刻むギター・カッティングも心地いい。最初と最後のしゃべりは、マイルズ出演の映画『ディンゴ』からのサンプリングです。

(written 2021.5.29)

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