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誕生時のジャズとはこうだった 〜 チューバ・スキニー

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Tuba Skinny / Nigel’s Dream

現代のバンドながら、ひたすらいにしえの古典的なストリート・ジャズ・サウンドを楽しく再現しているニュー・オーリンズのチューバ・スキニー。新作『Nigel’s Dream』(2023)が出ました。このバンドについては、共演したマリア・マルダーの記事で以前触れたことがありましたね。

しかしこのアルバム、Spotifyでは2023と記載があって、最新作紹介のプレイリストで流れてきたんですけれど、Bandcampのページだと2018年リリースとなっています。2023はサブスクに入った年ってこと?フィジカルはないみたいだけど?

ともあれチューバ・スキニー『Nigel’s Dream』。このバンドが結成以来ずっとやっているのはストリートにあった初期ニュー・オーリンズ・ジャズ、それもまだレコード録音が開始されるより前のスタイルをそのまま現代に再現しているわけで、『Nigel’s Dream』でもそれは不変です。

レコード録音がまだはじまっていない時代の音楽がどんなだったかを知る方法はいくつもあると思いますが、ジャズは聴けなくちゃねと思うぼくのばあいは1940年代以後に活躍したニュー・オーリンズ・リバイバルの古老たちのLPでつかんでいました。あの時代の古老たちはみんなレコード産業確立前から現場で活動していたひとたちでしたから。

そんなLPレコードの数々で、実はどんなファンも「あっ、誕生当時のニュー・オーリンズ・ジャズってこんな感じだったんだね」というのを知ったんです。キング・オリヴァーにしろサッチモにしろジェリー・ロール・モートンにしろレコードはシカゴなどに出てきてからのもので、やっぱり音楽性が変化していましたから。

チューバ・スキニーを聴くと、ああいったニュー・オーリンズ古老たちのレコードで実感していたようなレコード以前時代のニュー・オーリンズ・ジャズの、なんというか空気というか雰囲気というか香気とでもいうか、なんとも名状しがたくもたしかに感じるオーラみたいなものが間違いなくあるのを聴きとれます。

それこそがチューバ・スキニー最大の魅力。しかも初期ニュー・オーリンズ・ジャズが必然的にまとっていたまごうかたなきカリビアン・アトモスフィアがこのバンドの音楽にもあります。これこれここの音楽要素がこうで、と明示できるようなものではなく、なんとなくの熱みたいなものとして、そこにあるんです。

具体的に分析指摘できるのは2曲目「Unfortunate Rag」にアバネーラ・パートがあるということだけですが、そのほかアルバム全体にただようカリブ音楽テイストは、これだからこそニュー・オーリンズ・ミュージックだ、誕生時のジャズとはこうだったよねというのをぼくらに納得させてくれるものがあります。

(written 2023.1.30)

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