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ほのかに香るように歌う 〜 中澤卓也

(6 min read)

中澤卓也 / 繋ぐ Vol.3~カバー・ソングスⅢ Elements~

近い将来の日本の歌謡界を背負って立つ存在になることはもはや間違いない中澤卓也。2017年のデビュー以来ぐんぐんと急成長を遂げ、ヴォーカルに色艶を増してきています。

そんな卓也の新作アルバム『繋ぐ Vol.3~カバー・ソングスⅢ Elements~』が8月4日にリリースされました。三作目のカヴァー・アルバムで、おおいに期待している大好きな卓也だけに、ぼくはCD買うつもりでいたんですが、なんと意外や意外、即日Spotifyなどサブスクで聴けるようになりました!えらいぞ日本クラウン!

七曲、トータル約33分間は、演歌歌謡曲系のアルバムとしてはやや短いように思えるかもしれませんね。一曲四分程度ですから、10曲ほどは収録してもよかったんじゃないかと思わないでもないですが、でも33分間というこのサイズが、2020年代的な時代の要請を受け入れている感じがして、個人的には好感を持っています。

卓也の『繋ぐ Vol.3』、もうすっかりヘヴィ・ロテ状態なわけですが、今回も往年の歌謡曲、ヒット・ソングの数々をカヴァー。あまり知られていないものもふくまれているように思いますので、いちおう初演歌手とその年を一覧にしてみました。

琥珀色の日々(野口五郎、1984)
さらば友よ(森進一、1974)
駅(中森明菜、1986)
無縁坂(グレープ、1975)
異邦人(久保田早紀、1979)
シルエット・ロマンス(大橋純子、1981)
心の瞳(坂本九、1985)

「琥珀色の日々」「心の瞳」あたりは知名度が低いかもしれませんが、それ以外はわりとよく聴かれている有名曲じゃないでしょうか。それで、以前も言ったことですがカヴァーのキモは、初演歌手にない独自カラーをアレンジや歌唱で出せるかどうか?というところ。

その点、卓也は発声や歌いまわしに独自の個性がありますよね。声に甘さと優しさを兼ね備えながらも、決して主張しすぎず、すれ違いざまにほんのりほのかにふわっとだけ香る、みたいなヴォーカルがぼくは大のお気に入り。

エモーションの表出を抑制したソフトでクールでおだやかな歌唱法は、いつも言っていますが、最近の世界の歌の世界で主流となってきているもの。そんな表現スタイルをとる日本歌手のなかで、卓也は若手の代表格と言えるんじゃないでしょうか。

すーっと軽く乗せるようにふわりと歌う卓也には、ずっしりとした重厚感や濃厚さはないんですが、こういうのこそいまの時代のヴォーカル・スタイルですからね。べったりとした重たさがなく、あくまでドライで、クールでソフトで軽いっていう、卓也のそんなヴォーカル・スタイルこそ、2020年代的な歌唱法として称賛すべきものです。

今回『繋ぐ Vol.3』では、中盤に少人数編成のアクースティック・アレンジ・ヴァージョンが収録されているのも特筆すべきです。「駅」「無縁坂」「異邦人」の三曲で、全七曲中三つですから、目玉セクションと言えるかもしれません。

それらでは、ピアノ、アクースティック・ギター、パーカッションの三人だけでアンプラグド伴奏していて、しかもライヴ感を大切にするため、卓也の歌もふくめ全員での一発同時収録だったそう。たしかにそれでしか得られないグルーヴが息づいているのを聴きとることができます。

こういうのは、昨春のコロナ禍突入後、すぐに卓也が公式YouTubeチャンネルで開始して現在も続行中の「歌ごころ」企画がベースになっているんだろうと思います。「歌ごころ」は、カヴァーばかり、毎週金曜日に一曲づつとりあげて、ピアノ+ギター(+パーカッション)だけの伴奏で卓也が歌うというもの。

毎週一曲公開されるてもう一年半以上になるので、トータルで現在80曲以上にもなる「歌ごころ」ですが、この企画をずっと続けていくなかで、少人数のアクースティック伴奏でカヴァーを歌うということにたしかな手ごたえを感じるようになったのではないでしょうか。実際、今回のアルバム『繋ぐ Vol.3』収録曲のうち、半分程度は「歌ごころ」ですでに歌っていたものです。

アルバム中盤にあるそうしたアンプラグド・コーナーの前後も、リズム・セクションを中心に控えめなストリングスやホーンズ、エレキ・ギターなどが彩りを軽く添える程度で、軽めのアレンジです。

中澤卓也というこのたぐいまれな才能をサポートするのにこれ以上ないという伴奏で、軽くほのかに甘さや色香がふんわりとただようという卓也の特徴が活かされた好アルバムですよ、『繋ぐ Vol.3』。「無縁坂」「シルエット・ロマンス」などはこれ以上ないヴァージョンに仕上がったのではないでしょうか。

(written 2021.8.5)

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